リテイク・シックスティーン
豊島 ミホ 最初にお断りです。 この本を読み終えて、少し気になったことがあって調べものをするまで、私は豊島ミホさんが休業していることを知りませんでした。 今頃になって、ですが。 2008年末に休業宣言をされていて、この本が休業前最後の作品らしいです。 その件は、一旦置いておいての感想です。 高校に入学したばかりの5月、沙織はクラスメイトの孝子から秘密を告白された。 「ねえ、誰にも言わないでね、誰にも言わないでね」 「あたし、未来から来たの」 突拍子もない告白。 孝子は2009年から来たと言う。27歳だったと言う。 今は1997年の5月。 27歳で無職だった、もう一度イケてなかった高校時代からやり直したかったという孝子と、見た目的には優等生でお嬢様風の、でも内にはそうではないものを抱えている沙織の、高校生活が始まる。 この作品を読んで、まず真っ先に思ったのは 「痛々しいな」 ということだった。 それは、この作品の中の孝子をそう思ったのと同時に、作者である豊島ミホさんに対してでもある。 大変、失礼なことは承知の上で書くけれど。 豊島さんがあちこちで書いたり(『底辺女子高生』がその最たるもの)、インタビューで語ったりしているのでご存知の方も多いけれど、彼女自身、かなりイケてなかった高校時代を送った一人だ。 そしてその高校時代を水源にして彼女が書いた作品が私は好きだった。 けれど。 『エバーグリーン』を書いた辺りから、この先彼女はどこに進んでいくのだろう、どんなものを書いていくのだろう、と漠然と思い始めていて。 『リリイの籠』を読んだ時にもまた同じことを感じていて。 作者の年齢が進んで、社会に出てから経験を積むのと同時に、書くものも成長していくはずだ。 大学を卒業しても、30代になっても、変わらず高校時代だけを―それも教室の隅にいた痛みの記憶を伴った高校時代を―書いているわけにはいかなくなってくるはず。 その時、彼女はどうするのだろう、何を書くのだろう、と。 一読者の私が心配するようなことでもなかったのかもしれないけれど。 そんな思いが心のどこかにあったせいか、この作品はかなり激しく「痛々しい」という気がしたのだ。 豊島さんは、結局、高校時代の自分からどこへも行けなかったのではないかと。 だから尚のこと、イケてなかった高校時代をまたやり直したいと思った27歳の孝子に、自分の思いを託してこの作品を書いたのではなかっただろうかと。 ただ、この作品が孝子の一人称ではなく、沙織の一人称という「他者の目」あるいは「客観の目」を以って書かれたのはひとつの希望だったかな、とも思う。 この作品、どうやって孝子が2009年から1997年にやってきたのかというSF的命題はごっそり取り除かれている。 そこは、この作品のテーマではないからだろう。 未来からやってきた、というのはあくまでも装置に過ぎないのだ。 人生をやり直したいと思った孝子と、それを見つめる沙織の心象を語るための。 「痛々しい」と感じたところに戻る。 そんな風に私=読者が感じてしまったことは、何かしら豊島さんの休業につながるのかもしれない。 豊島さん自身、休業することで何かをリセットしたいのかもしれないし、休業宣言で「もう(書くの)やんなった」と書いているように、単純に書くことを一度やめてしまいたかったのもあるだろう。 大学を出てから、結局どこかの組織に属して働くことなしに―つまりは、人並な"社会人"を経験することなしに作家の道だけをたどって来た彼女は、一度"普通の社会人"としての、または"ただの一般人"としての経験をしてみるのも悪くはないのではないかな、と無責任な部外者である私は考えてしまう。 その方が、もっと熟成された"大人の"作品を書けるようになるのではないか...と思うのは、冷たい感想なのかもしれない。
by bongsenxanh
| 2011-09-06 00:15
| 本
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by bongsenxanh
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