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『ガソリン生活』 伊坂 幸太郎 著、朝日新聞出版
ガソリン生活

これ、良かった!
大好きだ、と思った。
ここのところの伊坂作品で、屈託なく「好きだ!」って言えるのは、実に『オー!ファーザー!』以来。そう言えばその『オー!ファーザー!』の面々もゲスト出演している。
私はやはり、伊坂くんは白い伊坂くんが好きだ。真っ黒い内容を書く伊坂くんではなく。
黒伊坂よりも白伊坂。

主役、と言うか語り手は緑のデミオ。
もう、ここ、"緑のデミオ"っていうところが伊坂くんの上手さだと思う。
絶対にフェラーリやフェアレディZなんかではなく、緑のデミオ。
この親近感、このかわいらしさ、この庶民ぽさ。
で、車が語り手なんて、突拍子もなかったりアニメーションチックだったりするのに、それが思ったよりもずっと違和感がないのだ。
緑のデミオが話すのが、とても自然にすんなりこちらの耳に心に届いてくる。
ストーリーが進むに連れて、「緑デミ、頑張れ!」と応援までしたくなってしまうのだ。

そして随所で声を上げて笑ってしまった。
これ、ガンダム(初代の)ネタがわかっていた方が、楽しめると思う。
楽しめると言えば、ある程度車に関する知識もあった方が楽しいはず。
そんなマニアな知識ではなく、一般的な車種とその車体が頭に浮かぶ程度の知識。
そうすると、イメージが広がると思う。
中でもマツダ車とトヨタ車がよく出て来たけれど...何か広告主の関係でもあったのかしら。
初出は朝日新聞掲載の新聞小説だったようだけれど。
私は、私の愛車のホンダや、プラグインも造っている三菱や、堅実な人気のスバルの車が全く登場しないことに少し物足りなさを感じたりした。

お話は、緑デミが一緒に暮らしている(車って、"一緒に暮らしている"ものだ)望月家の人々と、その家族に突如として降りかかってきたある出来事をめぐって進む。
お隣さんにはかなり年季の入った白カローラの"ザッパ"もいる。
町内にはカラスと戦う安田夫人もいる(この安田夫人のキャラが良い!)
家族のことをほんわか描いているようでいて、実はミステリ小説でもある。
ミステリの方は、今回は少し、伊坂くんがいろいろ張った伏線がすんなり見えてしまったけれど(いや、新聞小説だから、敢えてすんなり見えてしまうように書いたのかな?)、それでもよく練られて計算された展開になっていると思う。
そして、ほんわかしていながらも、メディアの功罪、そのメディアに踊らされる愚かで無責任な大衆、を描いてもいる辺りはやはり伊坂くんだなぁ、とも思う。

読んだ後、温かい気持ちになって、そして自分が所有している愛車がますますいとおしく感じられるような、そんな作品だった。
(先週、事故に遭って、私の愛車は大手術中...という状況もあり、尚更自分の車を恋しく思った)
by bongsenxanh | 2013-12-16 00:45 | | Comments(0)


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