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『Wicked』
えーと、去年の秋にBW(ブロードウエイ)に観に行った時の観劇記ですが、今年また行くので参考までにupしておきます。



今回(2004/10)、NYに行った最大の目的がこの『WICKED』だと言っても過言ではないくらい、とにかく観たかったこの作品。 今年のトニー賞のほとんどの部門にノミネートされ、うち舞台装置と衣装、そして主演女優賞を獲得しています。
ざっとストーリーを説明すると・・・
ベースになっているのは誰もが知っている『オズの魔法使い(The Wonderful Wizard of OZ)』。そのオズの魔法使いの中の緑の肌をした西の悪い魔女にスポットを当ててもうひとつの側面からみたオズを描き出しています。
オズの人々が「悪い魔女は死んだ!誰もその死を悲しむ者などいない!!」と喜び歌うシーンで幕は開きます。そこへ現れるのが良い魔女グリンダ。「オズは平和になりました、喜びましょう」と歌う彼女に、一人のオズ市民が「グリンダ、あなたは悪い魔女と友達だったって本当?」 と問いかけたところから悪い魔女エルファバについて語られ始めます。
ドロシーが来るもう少し前のオズを舞台に、肌が緑ということの他にはごく普通だった彼女=エルファバがどうして悪い魔女と呼ばれるようになったか、彼女は本当に悪い(wicked)魔女だったのか、彼女はどんな風にしてOZから消えていったのか・・・が、相当な予算をつぎ込んで作られたであろう豪華な装置と壮大なスケールで描かれます。

さて、私がどうしてそんなにもこの作品が観たかったかというと、前述したトニー賞主演女優賞を受賞した、エルファバを演じるイディーナ・メンゼル(Idina Menzel)を観たかった、いや、聴きたかったから。彼女の歌唱力、物凄いんです!!1幕幕切れにイディーナが歌う『Defying Gravity』は圧巻!!おそらくずっと残っていく名曲になると思います。彼女はあの『RENT』のオリジナルキャスト(モーリーン役)としてブロードウェイデビューを飾った人で私はその『RENT』でも彼女を観ていたはずなのですが、残念ながらその時の印象はほとんど残っていないのです。なぜなら時差ボケに勝てずに観劇中に眠ってしまったから。
話が少し逸れましたが『WICKED』は彼女の魅力なくしては成立しないだろう、というくらいに
彼女の力に依るところが大きいと思えます。少しエキセントリックでパワフルでズキューン!!と胸を貫いていくような衝撃のある歌声。本当にぞくぞくっと鳥肌が立つような感覚。それでいて演技をしている時の彼女はとてもキュートなのです。自分には何の非もないのに、生まれつき緑の肌だというコンプレックスを持ち、誰からも―父からさえも愛してもらえない、友達もいないという悲しみを抱えながらも、卑屈にはならずにいつかは自分も何かできる、と生き生きしいているエルファバをイディーナは本当に伸びやかに演じています。
このエルファバには学校時代を共にしたルームメイトの'ガ'リンダ(後の良い魔女グリンダ)という少女がいます。ガリンダはエルファバとは対照的に白い肌、ブロンドの髪を持つ少女。見た目はそうなのですが、ガリンダはちょっと計算高くて、いつもいかにして皆から好かれるか、人気者になるかを考えているクセのある役です。初めはお互いに反発し合っていたエルファバとガリンダですが、ちょっとした出来事をきっかけに打ち解けていきます。このグリンダ役、オリジナルキャストではクリスティン・チェノウェス(Kristin Chenoweth)が演じていて、彼女もこの役でトニー賞主演(助演ではありません)女優賞にノミネートされています。つまり、この作品、ダブルヒロインの作品なんです。クリスティンのグリンダは誰もがパーフェクト!というくらいに歌、演技、キャラクターすべてが輝きまくっているグリンダだったのですが、残念なことに今年の7月中旬に契約が切れるのと同時にこの役を降りてしまいました。
私もオリジナルキャストのCDを毎日朝から晩まで聴き込んでいたので、しっかりクリスティンの歌声が耳に染み着いてしまっていて、正直クリスティン降板後のグリンダは誰がやっても苦しいだろうなーと思っていました。
その2代目グリンダを演じていたのはジェニファー・ローラ・トンプソン(Jeniffer Laura Thompson)。『フット・ルース』や『ユーリンタウン』に出演していた女優さんです。彼女もそのパーフェクトなオリジナルを継ぐというプレッシャーにも負けず、なかなか健闘していました。ただ、観ていて途中から強く感じたのは「よく似せている」ということ。コミカルな演技や台詞回し、間の取り方など、本当にクリスティンのグリンダをうまく踏襲している感じがしたのです。もともとグリンダ役はクリスティンの個性・持ち味にあてて書かれたものなので(いわゆるあて書きというヤツですね。三谷幸喜さんが『新撰組!』でやっている脚本の書き方がこれです)それを他の役者が演じるのは最初から無理があることなのです。
前置きが長くなりましたが、そういうわけなので本来ならダブルヒロインであるはずのこの作品が、今現在はイディーナ一人だけがヒロインの作品になってしまっている感じでした。そうは言っても、この作品が持つパワーは相当なものだと思います。
後半になると『オズの魔法使い』のパロディ的要素が強くなってきますが、そもそもは緑の肌をしたエルファバ=異端者orマイナリティとそれを排除しようとする「善」の顔をした社会というテーマが根幹にはあって、それは絵空事ではなく、現代のアメリカ社会、もっと突っ込んで言えば、アラブ・イスラム社会とその民族を抑圧している今この瞬間のアメリカ、という構造をも反映しているとも言える・・・と思うのです。これは何もアメリカに限ったことではなく、この日本に関しても言えることであり、どの社会にも、つまり多数の人間が存在するコミュニティすべてにあてはまるテーマだと言えます。ユートピアのように思われているオズであっても、その例外ではないということ。
ただ、パロディの要素が入っていたり、家族の問題が入っていたり、二人の友情があったり・・・といろいろ盛り込みすぎてしまったせいで、ストーリーの軸がふらふら揺れてしまった感も否めません。
などなどと言いながらも、ラストで(少しネタバレになってしまいますが)皆に悪い魔女だと断定されたままオズを去っていくエルファバとオズに残り「良い魔女」の顔を続けざるを得ないグリンダが「Because I knew you・・・」 とお互いに歌い合うシーンではじわり・・・と涙が湧いてきてしまいました。アンサンブルもさすがはブロードウェイ!のまとまりぶり。他に、オリジナルキャストではオズの偉大な魔法使いを往年の名優ジョエル・グレイ(Joel Grey)が演じていたのですが、彼も途中、メディカルチェックが入って降板してしまいました。残念。今では持ち味はまったく異なる役者さんGeorge Hearnが演じています。彼も名優ではありますが。

長くなってしまいましたが、今年(2004)のブロードウェイを代表する大作であることは確か。
NYへ行かれる予定のある方には強くおすすめです。
連日SOLD OUTが続いていて、チケット入手困難なので、事前のチケット購入をおすすめします。私はもう一度イディーナの歌を聴きたくて、後日、朝から劇場のボックスオフィスに行きましたが、やはりSOLD OUTで入手できませんでした。

13OCT,2004 Gershwin Theatre
by bongsenxanh | 2005-10-31 19:46 | 観劇レビュ NY '04/'05 | Comments(0)


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