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『魔王』 伊坂 幸太郎 著、講談社
 予備知識なしに読んだのですが... 私ずっとずっと「魔王」なるものが実在して姿を現すお話だと思ってました...違ったんですね(^^;)
 それはさておき、非常に面白かったです。私は伊坂作品、『チルドレン』はとっても好きだったのですが、『ラッシュライフ』、『死神の精度』辺りは正直、今ひとつ乗りきれなかったのです。はぁーん、うまいけれどね...という感じで。なのですが、この作品は「好きだ!」って思いました。
 何が好きだったかって、最初の方で出てくる「兄貴の死に方」に関する会話のくだり。弟が「兄貴の死に方が乗っている本を夢の中で読んだ」って話をするのです。で、その中でお兄さんは道に寝ている犬を見つけて
「あ、犬だ」って言って近寄っていって、その傍に自分も寝そべると
「何だか眠いなあ」と呟いて、自分も眠り、そのまま死んでしまう。
でもってそれに付いていたキャプションが
「世の中で一番安らかな死に方です。」
...もう、ここがツボでツボで!私は大好きでした。ただこれが、単純なエピソードではなくて、後々の伏線になっていくところが恐ろしくもあり、伊坂さん、うまいなぁ...と思わされるところでもあり。



 割と対照的な兄と弟と弟の恋人を中心のお話なのですが(この、交通事故で両親共に亡くした兄弟という設定、『ここはグリーンウッド』と同じだなぁと思ったり)どちらかと言うと、私はとにかく深刻に考えずにはいられない兄に似ているなぁと思いながら読みました。何かにつけ「考えろ、考えるんだ」って自分に言い聞かせるところなんて、まさに。「考えないことは危険」だと思うんですよね、反射的に。逆に「考えない方がいいんだ」と言う弟との対比がまた際立っていました。
 この作品、今までの伊坂作品からすると異色なのでしょうか?ちらほらそんな感想を目にしたのですが、私はそうは思いませんでした。直接つながっているわけではないけれど、確かにどこかでつながってやはり伊坂さん色の出ている作品だなぁ、と。会話のうまさもそうだし、時代の空気と言うか、目に見えない宙に漂っている雰囲気を掬い取って表現するのがうまい人なんだなぁ、と。あと、ところどころでふと村上春樹の持つものを感じたのは私だけでしょうか。いや、私だけかな...(^^;)どこをどう、とはっきり言い表す言葉を私は持ち得ないので、曖昧な言い方になってしまうのだけれど、とっても感じたのです、通じるものを。
 ところでこの作品はこれ一冊で完結ということになるのでしょうか。きちんと終わっていないように思えたのですが。いくつかの謎も残されたままだと思うし。でもこういう終わらせ方もありなのかな。続きをまた書いてくれるのなら、楽しみです。
 あ、装丁も抜群です。表紙のシンプルさ。そして扉を開けた中表紙の何か不吉なものを感じさせる黒々とした写真をデザインしたページ。本屋さんで見かけたら手に取ってみてください。今年の本屋大賞の候補作にもなっています。
by bongsenxanh | 2006-02-09 03:19 | | Comments(0)


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