『Piazza』二回目、日曜日のマチネです。ヴィエトナミーズランチの後にQちゃんと一緒にマンハッタンまで下りました。50thの駅で一度乗り換えてLCTへ。なんだかんだで、いつも劇場へ着くのは開演ぎりぎりの時間になってしまいます。胸の中で「今日こそは...今日こそは...」と唱えながら、Vivian Beaumont Theaterのラウンジへ足を踏み入れます。なんだかここ半年ほどで、すっかりこの劇場が私のホームグラウンドのようになってきました(笑) 劇場内へ入り、Usherに「Hi,how are you today?」と声をかけられて席へ案内してもらい、PLAYBILLを受け取ります。あぁ...あの呪いの紙(私が勝手にこう名づけた、代役アナウンスの紙)が入っていませんように...
逸る気持ちを抑えつつ、まずは席に座ろうとすると...私の席にはお隣の席に座ったご年配の紳士の、高く組まれた足が伸びていました。足をどかせてもらわないと、座れません。「Excuse me?」と声をかけると、そのご紳士は顔を上げて「OH!この席は君の席?」とにこやかにおっしゃって足をどけてくれました。そして、「WOoow!今日はなんてツイているんだ、なんて幸せなんだ!」とおっしゃいます。・・・へ?「こんな風に劇場で横の席に君みたいな外国人の若いお嬢さんが座ることは初めてなんだよ!!」と。あら...そう。それは私も光栄ですわ、もごもご...(なんと切り替えしていいか戸惑うシャイなジャパニーズガール)。とりあえず、席に座って左胸を手で押さえながらPLAYBILLを開きます。 そこには―――――呪いの紙が3枚ほど。 願いは、通じなかった。神様は、いなかった。 日曜のマチネということもあって、今日はAaron以外にも兄ちゃん役のMichaelやClaraの父親役のBeauが休演でした。あぁ、もうこれで二回もAaronを逃して...本当に私はNYまで何をしに来たんだろう?視界が真っ暗になるような錯覚に襲われながら、ともかく平常心を保とうとしている私に、またお隣のおじいさまが話しかけてきました。お決まりのNYに住んでいるの?それともどの国から来たの?という質問から。私が日本から、と答えると「Oh~~~!!!」と感嘆の声をあげた後で突然、「アノネ、チョットマッテネ」と、日本語で話すではありませんか。私もついノッて「Wooow!!どうして?日本語が話せるの?」と返しました。おじいさまは「うん、第二次大戦の時に日本へ行ったことがあってね、Korean Warの時にも従軍して行ったしね」とおっしゃいます。ああぁ、この方、退役軍人さんなんだわ!ぎゃ、ちょっと私の苦手なタイプのアメリカンかも...。あの、偏見というわけではないのですが、私がサイゴンに住んでいた頃、やはり退役軍人のアメリカンのおじいさまがなぜか語学学校にヴィエトナム語を習いに来ていらっしゃって、そのおじいさまが「ブッシュ万歳!アメリカ万歳!!」という爺サマだったので、いろいろ嫌な思いをしたことがあるのです。時はまさに9.11直後のアメリカ軍のアフガニスタン侵攻の時でした。そんなわけで、どうにも私はその手の方々が苦手で、この時にもつい、「あ、このおじいさまも...」と思ってしまったのでした。おじいさまは妻と思しきご年配の女性と一緒でした。こちらの女性は指の爪をヌードカラーのネイルエナメルできれいにマニキュアした、とてもエレガントな雰囲気の方で、私がおじいさまの日本語に驚いて見せるとすかさず、「あなた、その他にも何か単語知ってる?」とやさしくツッコミを入れます。おじいさまは「アノネ、チョットマッテネ」しか知らないらしく、ウッ...と言葉に詰まっていました。なんだか、かわいいご夫妻なのです。おじいさまには更に「君は学生さんかな?専攻は何かな?」とも訊かれ...。幼く見えるジャパニ。 そうこうしているうちに、幕はあがりました。今日も、Kimの指揮でハープの旋律が流れ始めます。昨日の夜に観たばかりなので、Vickiに関してもKatieに関してもDavidに関しても、とりたてて新しい発見もなく...。ただ、お隣のおじいさまが、笑えるところでは声をあげて笑い、そして驚くところでは素直に「オッオー!!」と口に出して言ったりするので、なんとなく私もこれが初めての観劇のような気分になって新鮮な気持ちで観ることが出来ました。しかもですね、1幕の最後の一番盛り上がるClaraとFabrizioのキス&ベッドシーンと、そこへドアを開けて入って来たMargaretの姿でジャン!!と幕が下りた直後に、私に向かって 「What's happen?! Did they MAKE LOVE?!!」 と、訊いてくださるではありませんか!ぎゃ~~~!!じいちゃん、そういうことは若い女の子に向かって訊いちゃだめなりよ~~~!!と、思いつつも、そこはそれ、この作品に通い詰めたヴェテランとして、「あのね、あれはあの若い二人がまさに初めてのmake loveをしかけていたんだけどね、そこに母親が入ってきちゃってね...」と事細かに説明してしまったのでした。これって一歩間違ったら立派にセクハラではあるまいか(笑) で、彼らに「どう?この作品?」と感想を訊くと、「Wonderful!!とっても気に入ったわ!!」とのお答え。良かった。なんだか自分の作品のような気がして嬉しくなってしまうのです。私も調子に乗って、「音楽がとても美しいわよね、まるでオペラのスコアみたいで!!」と言うと、それには彼らは首を傾げていましたが(どちらかと言うと、オーソドックスなミュージカルのスコアをイメージしたらしい)私も「そうね、それは人によって違うわよね、でも私はそう感じたの!」とさらっと主張しておきました(笑) さて、休憩中に私はまた冷凍庫と化した劇場の外へ出て、やはり今日も観賞用プールの前のベンチに座ってぼんやりしておりました。昨日とまったく同じように。その時に、やけっぱち気味にAaronの看板ポスターの写真を撮り(ポスターにはいるのに、舞台上にはいないとはこれいかに?)、ベンチから見えるLCTの風景も写真を撮りました。正面に見えている建物がAvery Fisher Hall、左手の四角いコンクリの建物がジュリアード音楽院です。しばし、この風景を眺めながらひたすらぼんやりしていました。あー、私、いったい、何やってるんだろう...と。今回のNY旅行はすべて無駄だったんじゃないのか、と。 そうして休憩後に席に戻ると、またもや隣のおじいさまが「Welcome back!!」と迎えてくれ、更に「君のことをずっと探していたんだよ!」とおっしゃいます。どうして?と問うと、「Clara役が突然調子が悪くなっちゃってね、代演女優を探しているところなんだよ!」と。あはは...ベタだけど、でもなんだかほっこりして笑ってしまいました。いやー、相手役がAaronだったら、もちろんやるわよ、Clara。そして、奥様も交えてこの作品の感想をあれこれ訊かれたので、「実は私、既にこの作品を観るのは6回目くらいでして...」と正直に言うと、「OH!君は間違いなく、レコードを作ったよ!この作品を最多で観た日本人だ!」とお墨付きを頂きました。いやー、在住の方ならもっと観ている方もいるのかもしれませんけどね。そんなことを話しているうちに2幕が始まりました。そしてつつがなく舞台は進み、カーテンコール。なぜかKatieがだだ泣きしていました。Closeが近くなってきて気持ちが昂ぶってきたのかしら。カーテンコールの後に、おじいさまは「Nice Seeing YOU!!今日、君と一緒に観劇出来て本当に良かった」と言って握手を求めてくださいました。うん、私もあなたがいてくれたおかげで少し、気分が紛れたわ。どよ~~~んと滅入り込まなくて済んだかもしれない。奥様もにこにこして同様に声をかけてくれました。ちょっと、救われました。個人レベルでいい人って沢山いるので、退役軍人さんだっていうだけでバリアを張ってはいけませんね...。 でもやはり、帰りのバスの中でも鬱々とした気分は抜けなくて。宿へ帰った後、同宿の人に「連絡は取れないの?」と言われて、望み薄かな?と思いつつ、Aaronへメールを書いて送り。お夕飯を食べる気にもなれなくて、簡単にワンタンスープを啜っただけで済ませました。夜は10時にもならないうちにベッドへ入ってフテ寝してしまいました。 Sun 18June 2006 Vivian Beaumont Thater
by bongsenxanh
| 2006-07-28 02:29
| 観劇レビュ NY '06/'07
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by bongsenxanh
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