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『バイオリニストは肩が凝る』 鶴我 裕子 著、アルク出版企画
『バイオリニストは肩が凝る』 鶴我 裕子 著、アルク出版企画_a0054163_11101323.jpg面白い!強烈に面白いです、この本。NHK交響楽団の第1バイオリン奏者の鶴我裕子さんのエッセイ。そう書くと「あー、N響の内幕モノね?」と思われる方も多いかと思いますが、さにあらず。N響のことももちろん書かれていますが、芸大時代の話、数多の指揮者・ソリストの話、そしてバイオリン奏者の日常もあけっぴろげに書かれています。そしてこの方、文章が非常にうまい!音楽家の自伝であったりエッセイであったりというのは、えてして文章そのものの面白さは二の次になってしまったりするものですが、この方の文章は絶妙なリズムやテンポで読ませてくれるのです。ユーモアもあり、時には鋭い批判の目もあり。
クラシックが好きな方はもちろん楽しめると思いますし、クラシックにほとんど興味がなくて...という方でもこの文章の面白さで十分読めるのではないかと思います。
そしてそして。この方、恐ろしいまでに正直者なのです。仮にも人様の前で舞台に立って(オケだから座ることの方が多いけど)演奏をする身であればもう少し「包み隠す」ということをしそうなものなのに、あっけらかんとファンレターをくれた中学生の女の子について「しょんべんくさいのは好きじゃない」と書いてしまったり、コンサートを聴きに来てくれた友人知人が演奏後に楽屋口で待っていてくれるのを「面倒くさい、早く解放してほしい」なんて書いてしまったり、読んでいるこちらがハラハラするようなことまでさらりと書いてしまうのです。ご本人自身、「敵も味方も多い」と書いてらっしゃいますが、それは当然でしょう。でも、私はお友達になりたいなぁ(笑)



この本を読んでいて感じたのは「指揮者というのは、オケにとっては決して"同士"ではなくて、むしろ敵対する存在であったりするのだなぁ」ということ。もちろん、敵対ばかりでなくて、友好な関係であることもあるのでしょうけれど、あの大編成のオケを指揮してまとめあげて、ひとつの芸術にしていくのだから、当然そこでは指揮者VSオケの対立構造が出来上がるのだろうなぁ、と。それを端的に言っているのが
えっ?指揮者は要りません。あんな、人にさらってもらって手柄を横取りするようなバチアタリに用はないのです。
この方、どうしてこんなにも正直者なんでしょう...(笑)
そして聴衆についてもこんなことを書いていらっしゃいます。
聴衆は、神サマだろうか。見方によっては、批評を職業としていない批評家、とも言える。なんの準備もしてこないで、快楽だけを要求し、帰りのレストランのことで頭をイッパイにしている人たち......。えっ、それはオマエの見解だろうって?そうです。
たいへん、小気味良いです。
他にも「譜読み」が嫌いじゃ~という話や(「譜読み」って、まっさらの状態から楽譜を見て曲を立ち上げていく作業です。私もピアノを習っていた時、これが一番苦手でした)、「おり番」(演奏会で自分が出演しなくてもいい番のこと)が嬉しい!という話などなど、エピソードには事欠きません。
ひとつ、私が「え、そうなの?」と思ったのが、鶴我さんが"ブラボー"が男性用だということを知らなかった、という話。芸大で学んで、プロオケで第一バイオリンを務めているくらいの人でも知らないということが少し驚きでした。私はたぶん、習っていたのが声楽の先生だったので知らないうちに覚えていたのだとは思いますが、やはりあれはイタリアオペラで使われる言葉なんでしょうかねー。私が時々覗いて参考にさせて頂いているクラシック好きの方のブログでも「ブラボー、ブラヴィ、ブラヴァ」問題について触れられていて、とても興味深く読ませていただいたのですが、確かに日本の演奏会で日本人の客がこれをわざわざ使い分けるのは、ある種のいやらしさがつきまとうかもしれません。NYのMetropolitan Operaでも、ソプラノに対して「ブラヴァ!!」と声をかけているお客さんの声を今まで一度も聞いたことがありません。英語では「ブラボー」が女性・男性すべてに使えるのですね。例えば、イタリアの歌劇場に行ったら、きっとまた事情は違うのかもしれません。なんてったってお客さんもイタリア語ネイティヴなんですものね。
話が逸れましたが。少しでも興味が湧いた方はぜひ!私は図書館で借りたのですが、あまりにも何度も読み返すので(ゲルギエフのエピソードとかね、シュタインのところとかね)自分で購入することにしました。この手の単行本としては少々高めの1,800円ですが、その価値はあると思います。
by bongsenxanh | 2006-08-16 12:19 | | Comments(3)
Commented by ともきち at 2006-08-17 05:26 x
そそられました。
大変面白そうね。

音楽家の人って文章うまいのよね。
全然知らない人なので、とりあえず図書館でりくえすとしてみまあす。
あることを祈る。
Commented by ともきち at 2006-08-17 05:28 x
今ネット予約してきたけど・・・(--〆)
予約待ちでしかも前に数人いました・・・とほほのほ。
来月くらいになるかな・・人気爆発だったらしいわが町で・・
Commented by bongsenxanh at 2006-08-17 20:34
わ~い!!ぜひ読んでください!!
音楽家の方って本当に「ゴーストライター?」って思うくらいにうまい方、いますよねー。
この本の帯に「バイオリン界の中村紘子か、オーケストラ界の向田邦子か!?」って書かれていて、その謳い文句はどうなの?と思ったのですが(笑)

この本、確か以前に週刊ブックレビュでどなたかが紹介されていたような気がします。3冊持参するうちのメインじゃない本として。うろ覚えなんですが...。
で、先月辺りに偶然聞いたNHKのラジオで、この中の1篇が朗読されていたんですよー。おそらくそれを聞かれた方からのリクエストが殺到したりしたんじゃないかなーと思います。朗読している雰囲気がなかなかいい感じだったので。

読まれたらぜひぜひ感想聞かせてくださいね♪


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