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『温室デイズ』 瀬尾 まいこ 著、角川書店
温室デイズ
瀬尾 まいこ / 角川書店
あ―――...う―――...。と、読み終えて唸った本。なんだろう。なんだろう。瀬尾さんがこれを書きたかった気持ちはなんとなく理解できる。おそらく書かずにはいられないくらいの立場に、実際に瀬尾さんも立ったのだろうということも。
主人公のみちると優子が通う宮前中学は、荒れている。学級も授業も崩壊し、生徒は物を壊し、教師を攻撃する。そのことをクラスで堂々と指摘して「いい学校にしたい」と発言したみちるは、途端にいじめの標的にされ、陰湿で執拗ないじめを受けるようになる。それを傍観するしかなかった優子は失望し、別室登校(保健室登校みたいなもの)をするようになる。みちるの幼馴染で筋金入りの不良・瞬(家はヤ○ザ)、スクールサポーターというよくわからない肩書きで中学へ赴任してきた吉川という講師、自他共に認める"パシリ"斉藤君という一風変わった男の子も絡んで、中学という"温室"での日々が綴られる―――。



帯には「ひりひりと痛くて、じんじんと心に沁みる。」「とびきりの青春小説!」「ふたりの少女が起こした、小さな優しい奇跡。」というコピーが踊っていますが、はっきり言ってしまえば、全然沁みないし、とびきりの青春小説でもないし、優しい奇跡も起こりません。う――...ん、瀬尾さんは世間へ向けて「中学の現状はこんなことになっています!」というある種の告発がしたかったのかもしれないなぁ...と。関西地域の中学は特に難しいことになっているようだし...。そんな中学で、苦しくても辛くても、それでも一日の大半を過ごさなければいけない中学生の子たちの日常をすくい取りたかったのかなぁ...と。好意的に考えてみたのですが。でも、あからさまに精神的苦痛だけでなく、どつかれたり蹴られたりして肉体的苦痛を受けているみちるを放置しておく教師や学校とか、明確な目的意識もないまま瞬に対して"カウンセリング(もどき)"をする優子の行動とか、そもそもみちるは何をどう変えたかったのかとか(この子が戦わずにはいられない気持ちは痛いほどわかるのですが)、「???」という消化不良の部分が多過ぎて、なんだかな――...と。この小説そのものに温室特有の「なまぬるさ」が漂っていて、どうにもすっきりしない読後感なのでした。瀬尾さん、ここのところ、目の覚めるような鮮やかな作品というのがありませんね。私にとって良かったのって『幸福な食卓』の前半3/4までで、それ以降なかなかいい作品が出て来ない...という気がします。この間の『強運の持ち主』はちらっと良かったけれど。ただ、結局問題は解決しないまま、卒業することによってしか今いる温室からの脱却はないのだというところは怖いくらいのリアリティがありました。私が通っていた中学もここまで酷くはなかったけれど、それでも卒業した時には「あぁ、ようやくここから出てまっとうな世界の空気が吸える!」というせいせいとした気分がありましたっけ。子どもって望むと望まざるとに関わらず、あの箱庭組織に属してなんとかsurviveしなければいけないのですよね。大人よりもずっと不自由な身分で気の毒だと思います。
by bongsenxanh | 2006-11-02 02:54 | | Comments(2)
Commented by ともきち at 2006-11-02 06:58 x
私もこれ同じように思ったわ。
優しい奇跡が起こらないので不感症かと思いました(笑)
全体に報告、って感じがしません?
こういう事が起こってるんですよ、こういう時にはこういうところにいってるんですよ、というご報告。
戦いをしようとした子供はバカかねとちょっと思った鬼です。だってさあ、クラスの中の様子を見れば中途半端に行動すればどうなるかわかるじゃない?もっと明確な何かがあって蜂起したと思ったのに何もなし・・これじゃあなあ・・。

もどきもそのとおり!あれさあ、癒しているつもりになっているところがまた怖いと思った。いや、癒されているのかもしれないけど、相手の子にとっては。でもあまりにあまりで・・
Commented by bongsenxanh at 2006-11-03 00:46
♪ともきちさん
同じでしたか!私も「これ、もしかして私が鈍いのかな...優しい奇跡っていうものに気づいていないだけなのかな?」と思っていたので、同じように思っていた方がいてほっとしました(笑) そうそう、報告なんですよね。だから荒れている中学の現状を知らない方に対して報告したい、という意図であったのならそれは成功しているのでしょうけれど。でもそれなら小説である必要はないのかもしれず。エッセイでもルポでもいいわけですよね。小説で書くのなら、小説でなければ出せない味わいがあってほしいなぁ...と。瀬尾さんは「戦っている中学生を書きたかった」らしいのですが。確かにみちるちゃんはがんばって戦ってはいますけどねー、もう少し方法を練らないと...その辺りは中学生の限界なのでしょうか。
もどきが、私は一番いやな感じがしたのです。すごく独断的で偽善的で、自分がカウンセリングの真似事をしていいことしてる気になっているところがなんとも。これは中学生の幼稚性ととらえるべき?と思ったり。『優しい音楽』の、死んだお兄ちゃんと似ている人と付き合う女の子の時と似たような嫌悪感を感じました。あー、ものすごく辛口かも...(^^;)


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