サージェントはアメリカ人とは言っても、フィレンツェに生まれ、パリで美術を学び、イギリスでの生活が長かった人です。ヨーロッパ各地に滞在もしました。自身の中にも"アメリカを捨てたアメリカ人"としての自覚があったようです。そのため、画風は18世紀バロック・ロココの肖像画をより洗練し、端整にしたもの、という感じです。印象画家ミレーやモネ(サージェントは彼を敬愛していた)とも親交があったようですが、彼自身は印象派までの飛躍はなかったようです。が、"肖像画家"という自分の位置づけには常にディレンマを抱いていたようです。彼自身もお金には困らない家の生まれなのですが、彼が描く人々もまた皆上流階級の人々ばかり。そして"肖像画"とは、常にその依頼主の気に入るように、実物の2、3割増~時には7、8割増?で描かなければいけない(これは例えば英国のヴィクトリア女王の写真と肖像画を見比べてもよくわかることで...)。画家生活の後半期は"肖像画家"というものに疲れていた様子で、モネのように戸外の風景を水彩で描いたり、庭を描いたりもしています。 左端のポストカード『マダムX(ゴートロー夫人)』はこの間のNYでメトロポリタン美術館へ行った時に買いました。それについてはまた後日書きます。このゴートロー夫人の肖像画、素晴らしい絵なのですが発表当時にはスキャンダルとして話題になったそうです。当時、ここまで胸元と腕があらわになった肖像画というのはあり得ないものだったんですね。また、突き出しすぎた鼻、すぼんだ口元、柔らかく描かれすぎた手指、デコルテにフィットしていないかのような黒いドレスも物議を醸したとか。現代から見れば、何の問題もないものなのに。"時代の空気"というのはあるものなんですね。これはサージェント自身が当時きっての美貌を誇っていたゴートロー夫人に「描かせてほしい」と頼み込んで描いた意欲作だったのですが、パリのサロンでのその不評がもととなって、彼はイギリスへ移り住む決意をしたようです。そう言えばこの絵、海外ミステリ本『シャルビューク夫人の肖像』の表紙に使われていて(ただし、顔はトリミングされている) あら、と思いました。やはり観る者に何かミステリアスなものを想起させる絵なのでしょうか。
by bongsenxanh
| 2007-01-23 00:01
| 美術
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