映画の日でしたので、観に行って来ました。
公開前には公開されたらすぐ観に行こうと思っていたのですが、NY行きと重なったのとその後NYぼけしていたのとで観る気にならず、結局今頃になりました。 母と斜向かいの家のおばさまと一緒に行きました。 家族サービスとご近所サービスを兼ねております。 あ、先に一言お断りしておきますと、私、藤沢作品ファンです。 ですので、単純に映画としてだけ観るのとはちょっと異なる感想かもしれません。 とてもいい映画だったと思います。同じ山田洋次監督作品でも『隠し剣 鬼の爪』はあまり感心しなかったので、今作も正直なところそんなに期待していなかったのですが、それをあっさり忘れさせてくれるほどいい出来でした。危惧していた主演のあの方も、思っていたのほどにはき○たく臭さを前面に出していませんでしたし(但し、口元に笑いをほころばせた時の表情とか何気ない首の動かし方とか視線のやり方とか、やはり出る)、いい演技をしていたと思います。武士としてのたたずまいとしては今ひとつな気がしなくもなかったですが、そこはもともと、山田監督が"時代劇のリアリティ"にこだわる方ではないですしね。そして誰より秀逸な演技をしていたのはこの人でしょう! 笹野高史さん!! もうこの人なしではこの映画は成立しません。こう言っては申し訳ないけれど、主演の三村新之丞役は他の俳優さんでも代わりがきくと思います。と言うか、他の人だったらどう演じるだろうな...と、何人かの俳優さんでイメージ膨らませたりしたくらいです。が、笹野さんはそうではありません。この人の代わりは誰にも務まりません。台詞やしぐさでユーモラスに笑いを取るところはもちろんのこと、ひたひたと新之丞とその妻・加世を見守り、支え、尽くす老僕・徳平の役はこの人でなければなりません。とっても良かったです。妻・加世を演じた檀れいさんも良かったです。とりたてて演技がうまい!という感じではないのですが、持っている雰囲気とか瞬間ごとの表情がとても良くて、引き付けられました。すごく幼く見えたのですが、1971年生まれってことはもう数えで36歳なんですね。全然そうは見えませんでした。まだそれこそ20代前半のような瑞々しさを感じました。『隠し剣~』の時の松たか子や『たそがれ清兵衛』の時の宮沢りえを彷彿とさせるようなところもあって、山田監督の女優さんの好みが見えたような気もしたり。 この作品の原作、藤沢周平さんの『隠し剣 秋風抄』の中の1篇である『盲目剣谺返し』です。50頁に満たないほどの短篇です。『隠し剣 鬼の爪』も同様に、あんなに短い短篇をどうやって1本の映画に仕上げるのか...と思っていましたが、やはり原作よりも"夫婦の情"というものをかなり膨らませて盛り上げて描いていました。それは小説と映画という媒体の違いもあり、よりエンターテインメント性や視覚的なわかりやすさを優先する映画(特に山田監督は万人へのわかりやすさを重視している監督さんだと思います)だからこそ、という面もあるのでしょうけれど。私個人の印象としては「ちょっとべったりし過ぎ?」という感じでした。あの時代の地方の下級武士って男女間の愛情をやたらと表さないものですし、藤沢作品の良さもまさにそこにあって「秘すればこそ花」的な口にしないからこその強い思いとか抑制された沈黙の中に潜む情といった極めて古式ゆかしき日本的美徳、日本的情緒に重きを置いていると思うのですが、山田監督の映画になってしまうとどうもその辺のことをわかりやすい映像に置き換え過ぎたり、簡単に台詞にしてしまい過ぎたりする傾向があるようです。この作品に限らず。そういった点で、私は「山田監督って藤沢作品の本当の良さを理解しているのかしら?」と疑問に感じることもあるのです。本来なら寡黙な藤沢作品の登場人物たちが、山田監督の映画になった途端にぺらぺらと雄弁になってしまうのですよね。例えば同じ藤沢作品でも『蝉しぐれ』がNHKでドラマ化された時などは、同じ映像化でも"寡黙"が保たれていてとてもいい仕上がりだったのですが。あの時は黒土三男さんの脚本が良かったのかなぁ。あとですね、タイトルになっている「武士の一分」という言葉を、何度も連呼し過ぎるのもなんだか違うな...という気がしました。これ、原作ではたった一回だけ文中に登場する言葉なのです。だからこそ重みのある言葉なのですが。何度も連呼されるとどうも言葉が軽くなりますし、うるさくなりますよね。と、以上は藤沢作品に愛情があるからこそのうるさ評だと思ってお許しくださいませ。 原作には書かれていないシーンで、蛍の舞い飛ぶシーンはとても良かったです。これは映像だからこそ成せる業だなぁと嘆息しました。このシーンに表れる加世の夫に対するいたわりの気持ちも痛いほど沁みてきました。なんだかんだ言いましたが、映画としては本当に良く出来ていたと思います。 隠し剣秋風抄 藤沢 周平
by bongsenxanh
| 2007-02-02 02:12
| 映画
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Comments(6)
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みちよ
at 2007-02-02 20:46
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あぁ、ふえさん。なんて素晴らしいレビューなんでしょう!
ちょっと感動しました。 ところで笹野さん、よかったでしょう!わたしもほんとそう思う。 確か壇さんをかばって、「殴るならこのわしを!」みたいなシーンがあったでしょう。 あたくし、そこで「ウグ…(T_T)」と声が出ちゃいましたよ。 もう全てが素晴らしかったのだけど、彼がこの作品をやわらかく、ときにキリリと 締めていたように思えます。こういう役どころを失敗しては、主役を失敗するより 痛いかもしれません。それほど大事な役でしたね。 蛍もよかったね。アげハも好きでした。 日本の賞争いには全く興味はないけれど、笹野さんのあの演技には 何らかの評価があるといいなぁと思ってます。
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bongsenxanh at 2007-02-03 00:52
うわぁ!みっちーにそんなこと言われたらこそばゆいやら、顔から火を噴きそうになるやら...>なんて素晴らしいレビューなんでしょう!ちょっと感動しました。
どうもありがとうございマス...(てれてれ) 笹野さん、良かったですよね!!すんごく良かった!!! みっちーがおっしゃるその檀さんをかばうシーンも良かったし、檀さんが去った後に、旦那様のところにお客が来て「徳平、茶!!」って言われて背をかがめながら不器用に「へぃ」って茶を出すような何気ない日常のシーンも本当に良かったんですよね。「まずい茶だな」って言われても飄々と「へぃ」って言ったりして。なんだかねー、なんだかねー、本当に良かったのですよ!!(興奮気味) 三津五郎さんのところに伝言しに行って「侮るまいぞ!」って三津五郎さん相手にぬけぬけと言っちゃうところも良かったですし(笑) 字数はみ出したので続きます。
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bongsenxanh at 2007-02-03 00:58
笹野さんご自身がインタビューで「ただただ"旦那様!"とだけ思って演じた」っておっしゃってましたが、それが本当によく表れていましたよね。この映画の空気を笹野さんが作り出していたと言っても過言ではない気がします。本当になんらかの形で評価されるといいですねー。でも、賞とか獲らなくても、もう十分に私たち観客がわかっていて認めているからそれが何よりなんじゃないかなーとも思います^^
揚羽とか蛍とか、あれは本当に映像の力だなぁと思いました。文章では出来ない表現でしたもの。逆に、原作では映像がない分、読者も"盲目の世界"というのを味わえる書き方になっていたんですよ。決闘のシーンだとか、加世が戻ってきたことが見えないところだとか(ただ"飯炊き女"って書かれていたら、新之丞にだけでなく、読者にもそれが加世だとわからないわけです)。そういう点で、映画にも小説にもそれぞれ得意な表現法っていうものがあるんだなぁ...とつくづく感じさせられました。それぞれにそれぞれの良さや活かし方があるんだなぁ、と。
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bongsenxanh at 2007-02-03 00:59
みっちーは藤沢作品、いかがかしら?私、『用心棒日月抄』シリーズなんて眩暈がするほど好きなんですけど(笑) 一時期、どっぷり浸かり過ぎて会話する時にも「拙者~と申す」とか「それがし~でござります」とか(女なのに...)出ちゃうほど重症でした(^^;)
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quast at 2007-02-03 11:29
この映画は見たことないのですが、笹野さんという言葉に反応してしまいました(笑)。自由劇場時代から笹野さんの舞台は拝見していますが、最近では歌舞伎とかにも出演されているようで、勘三郎さんに可愛がって(こういう言い方も変ですが)もらっているみたいで嬉しいです。また今年のコクーン歌舞伎にも出演するでしょうから、是非機会があったら生笹野さんを観にいってくださいませ。
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bongsenxanh at 2007-02-03 20:28
quastさん
舞台の生笹野さん、何度か観ております。10年以上前に初めて日本でLes Mizを観た時のテナルディエも笹野さんでした。笹野さんには縁があるんです、ふふ。
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by bongsenxanh
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