シャルビューク夫人の肖像
ジェフリー・フォード著 田中一江 訳 読みました、『シャルビューク夫人の肖像』。私がこの本を手に取ったのは、ひたすらこの表紙の装丁に使われているジョン・シンガー・サージェントの『マダムX(ゴートロー夫人)』の肖像画に縁るのですが。この作品、一応ミステリということになるのでしょうか。ある種のファンタジーのようでもあります。 19世紀末のニューヨーク。売れっ子肖像画家ピアンボのところへ奇妙な依頼が入る。通常ならあり得ない法外な値段の報酬を支払う、だから私の肖像画を描いてほしい―――ただし、私の姿は見ないで。シャルビューク夫人と名乗るその女性の依頼は、画家ピアンボを虜にする。 相手の姿を見ないまま肖像画を描く―――雲をつかむような話です。それはつまり、外見ではなく、モデルの内面をつかみとってキャンバスの上に描き出してほしい、ということに他なりません。が、それだけではなく、モデルはその描いた姿が自分の外見とそっくりであってほしい、とも注文をつけるのです。無理難題。これは裕福な夫人の金に飽かせた余興なのでしょうか?彼女の本当の目的はどこにあるのでしょうか?画家は彼女の姿を描くべく、彼女の元へ通います。画家が来る度に限られた時間の中で、屏風越しに自分の数奇な半生を語って聞かせる夫人。その荒唐無稽さは並大抵ではありません。結晶言語学者(クリスタロゴジスト)をしていたという父親、幼い頃からその父の助手をして自らも雪の結晶の双子の言葉が聞こえるようになったという夫人、夫との運命的な出会いと結婚...。それらを聞きながら夫人の姿を思い描こうとする内に画家は夫人に魅了されていく。その画家の身辺に奇妙なことが起こり始める。排泄物から未来を占うという怪しい占い師、目から血を流して女性が死ぬという事件の多発、何者かからの謎の脅し...。夫人は何者なのか、果たして夫人が語って聞かせる話はどこまでが真実でどこからが虚構なのか...現実と幻想が入り混じって混沌としてくるような不思議さに満ちた作品です。 この作品、夫人が語って聞かせる荒唐無稽な話を楽しめるかどうか、が読者によってかなり異なって、その結果、この作品への評価も違ってくるのではないでしょうか。私は、その荒唐無稽さに辟易してしまうというか、身を委ね切ることが出来ませんでした。うーん、リアリストで割と淡白だからかなぁ。「はぁ?そんなのうそっぱち~!夫人の大ボラに決まってるわ」と思ってしまって、あまり楽しめませんでした。そして、途中からオチが読めてきてしまうのですね。あぁ、やっぱり思った通り...と。おそらくオチでどか~んと鮮やかに読者を裏切る、というようなミステリではないので、それでいいのでしょうけれど。夫人と画家との会話のやりとりを楽しむのが、この作品の醍醐味なのでしょう。ただ、私としては、屏風越しに姿を見ないまま肖像画を描く、という設定と発想が非常に魅力的なものだっただけに、もっともっと大きなうねりでドラマティックに酔わせてほしかった...と残念な気がしてしまいました。
by bongsenxanh
| 2007-03-07 00:21
| 本
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Comments(2)
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ともきち
at 2007-03-09 18:08
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そそそそそーー
これってミステリよりもどっちかというと幻想、の意味の方が強いのよね。 あの血がふきでてるあれはなんだ?とかこの顔を見せないのは!とか引っ張り力みたいのが強いだけに、そしてふえさん書かれているように何より最初のこの『顔を見ないで肖像画を描く』という設定がどきどきするだけに、惜しいんだわ。惜しいって望んでるものが私は違ったのかもしれないけど。ただ嫌いではなかったの、私。だからこの人の別の本を読みたいとも思ったりしたのよ。うふ。
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bongsenxanh at 2007-03-10 01:43
♪ともきちさん
ですよね、ですよね!純粋にミステリっていうのとは違うなー、と。 あの漂っている幻想風の空気を味わうものなのかなー、と。 初めて読む作家さんだったのですけど、世界幻想文学大賞っていうのを獲ってらっしゃる方なんですよね。だからきっとそういう持ち味の方なんだろうなーと思って。私もその受賞作だという『白い果実』、読んでみようかしら、とも思いました。 で、そうなんです!私、この最初の『顔を見ないで肖像画を描く』というのでぐぐぐぐぐ!と惹きつけられたんです!!それこそ、この主人公の画家と同じように。だからもっとこう・・・ぐらぐらさせてほしかったんですよねー(笑) その辺がとっても残念だったんです。小さくまとまって終わってしまったと言うか。小さな世界の中で完結してしまったと言うか。夫人の子ども時代の話が吸引力が弱かったですし。でも後から考えたら、これ、小ぢんまりした舞台で二人芝居で演じたりしたら面白い作品かも・・・。芸達者な役者さん二人で。それこそ若い時のミワさまがシャルビューク夫人、とか(笑)
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