ようやく着手できる今回の観劇レビュ、まず第一発めは『Spring Awakening』で。本当は到着して一番初めに観たのは『Les Miz』だったんですけど...でも作品として今回の私の一番はこの作品だったので(ごめん、ごめんね、あーろん...!! でもあーろんも好きだって言ってたから、たぶんOK・笑)。写真、どれを使おうか迷ったのですが、やはりこの作品の象徴的なこのシーンを。本当はGallagherくんが"The Bitch Of Living"を歌っているシーンを使いたい気もしたのですが、見つけられなかったので。12月頭にNY滞在した時にプレビューで観ておかなかったことを激しく後悔した作品です。はい、強く強くお勧めです!!観る人を選ぶ作品かとは思いますが、おそらく私の中では今シーズンのベストだと思います。フランク・ヴェデキントによる戯曲『春の目ざめ』が原作です。ストーリーは・・・
1890年代、ドイツ。厳格なキリスト教の宗教観に支配されている時代。子どもは大人に抑圧され、性の情報からも遠ざけられている。学校も当然、男女別。男子と女子は隔離されている。ヒロイン・Wendlaは母親から「姉さんが妊娠したのよ!」と告げられて「赤ちゃんはどうやって出来るの?」と訊くが、母親は言葉を濁し、「結婚して、一人の男の人を心から強く強く愛すれば、赤ちゃんは自然と授かるものなのよ」と、曖昧な説明をされるのみ。一方、主役Melchior(メルキー)は勉強と規律で締め付けられるのみの男子校生活で鬱屈した思いを抱えて生きている。 メルキーの通う男子校にはMoritz(モリッツ)という同級生がいて、彼はここのところ悪夢(この年頃の男の子が見る悶々としたやつです)に悩まされて睡眠不足だと言う。そのため、ラテン語の授業中にうとうとしてしまって教師に叱られる。そのモリッツをかばって教師に反論したメルキーは教師から懲戒棒で胸を叩かれる(厳しい体罰が当たり前の時代)。 このシーンの直後にモリッツが前述の"The Bitch Of Living"を歌い始めるのですが、ここで一気にこの作品の音楽の持つ力に引き込まれます...!!(前述に某UTサイトのリンク張りましたので、どんなシーンかぜひぜひ動画で観てみてください) このシーンでですね、モリッツはやおら制服の胸元の内ポケットからハンドマイクを取り出して歌い始めるんですよ!なかなか斬新なアイディアです。ミュージカルでは髪に隠してピンマイクをつけているのが当然なので、普通ならハンドマイクなんて必要ないのですよね(笑) でも、このハンドマイクを取り出して歌い始める・・・という演出は、そのまま「俺は言いたいことがあるんだ!!」という青年の主張に直結するわけですね。わかりやすいと言えば、わかりやすい演出。でも今まで誰もやらなかった画期的な演出だと思います。そしてナンバーを歌い終わるとまたハンドマイクはポケットにしまって何事もなかったかのように椅子にちょこんと座ってラテン語の授業に戻るのです。静と動。抑圧とその反動。そのコントラストが際立っていて、巧いなぁ...!と思わされました。 そして歌われるナンバーがですね、冒険とも思えるほどのコンテンポラリーミュージックなんですね。演出家のインタビューなどを読むと、実際にDuncan Sheikによるこのコンテンポラリーミュージックとこの戯曲とのコンビネーションというのはかなりの冒険だったようですが。ラジオから流れて来ても普通にRock-Popsとして受け止められて、誰もミュージカルのナンバーだとは思わないだろうというくらいの音楽なのです。でもこの音楽こそがこのミュージカルの魅力の源だと思います。ストーリーは前述した通り、非常にかっちりした作りの戯曲なので、ミュージカルと言うよりむしろストレートプレイの空気を漂わせるものなのですが(戯曲なんだから当たり前ですね)、そこに抑圧されてままならない思いを抱えている子どもの内面を体現するものとしてコンテンポラリーミュージックを導入したことで、この作品の幅が一挙に拡大したのではないか、と。もともとRockというジャンルは大人だったり社会だったり既成の価値観だったり・・・に反抗するための手段として発展してきたものですから。まさに優等生でありながら反抗児でもあるメルキーや、教師にも父親にも逆らえず悶々としているモリッツの心情を表現するのには最適の音楽だったのではないでしょうか。 その音楽を演奏するバンド。舞台上に乗っています。通常のミュージカルのようにオーケストラピットを設けていないんですね。出演者たちの背後にバンドを構えて、私の大好きな指揮者・Kimberly Grigsbyが自らもピアノと電子オルガン(かな?)を演奏しながら弾き振りをしています。非常にかっこいいです。Kim、舞台で演奏している時、裸足なんですよね。最初に舞台に出て来る時にはサンダルを履いているのですが、オルガンに座った時に脱いで裸足になるのです。その裸足の足をがんがん踏み鳴らしてリズムを取って弾き振りするのです。惚れ惚れしました(笑) 『Piazza』の時はほとんど1列目か2列目で観ていたので、Kimの指揮を間近で観られて、幕後に二言三言声をかけることも出来たのですが、今回は席が遠かったので声をかけられなくて残念でした。あ、前後しましたが、バンドの構成も非常にシンプル。オーケストラではありません。ギターとベースとドラム、それにチェロ。後、後方右脇の目立たない位置にバイオリンとビオラも一人づつ。それにKimの弾くピアノが入ったりするだけです。 シンプルと言えば、舞台装置もとてもシンプル。はっきり言って装置と呼べるようなものはほとんどありません。学校の中では男の子たちが座る木の椅子が置かれているだけですし、後は舞台中央の床板が一部、ロープで吊るされて昇降したり、スライドして穴が開いたりする程度。舞台装置に頼らず、役者の躍動感によって舞台空間を演出している感じです。 そして振付。振付が非常に独特です。ダンスと言うよりはむしろマイムに近いような印象を受けました。とても独創的。振付家はBill T.Jones。あの振りは、モダンなんですよね、一応。言葉で説明するのが難しいのだけれど...役者が自分の手を自分の体(胸や肩や腰や)に這わせていったり、首や腕、体全体をひねるような動きを多用した振りは悩める青春期の少年少女を絶妙に表現していたと思います。私は、好きでした。 演じ、歌っていた役者さんたち。私が観たこの初回はAdultの女性とMarthaがアンダーでしたが、それ以外はすべてOriginal Cast。Great!!この作品、子どもの役はもちろんそれぞれが一人一人のキャラクターを演じるのですが、それに対する大人の役は男性・女性、各一人づつの役者さんのみで演じられます。つまり、Adultの男性は男子校の教師、モリッツの父親、医師他を演じ、Adultの女性はWendlaの母親、メルキーの母親、ピアノ教師他を演じるというわけです。これ、おそらく意図してそうしたのだと思うのですが、当たりだったと思います。一人の役者が何役もの大人を演じることでいっそう大人VS子どもの対立構造が浮き彫りになったと。結局、職を変え、立場を変えても、どの大人も子どもの側に立つことはないのだということがありありと伝わってきましたから。時代的に考えたらそれが普通だったのでしょうね。Adultの男性を演じていたStephen Spinellaさん、ものすごい演技力でした。ぎょっとするほど上手かったです。特にモリッツが自殺してしまった後、彼の墓穴の前で嘆いている演技は客席を圧倒する迫真の演技でした。あれだけの"嘆き"の演技を見せたすぐ後で一変して学校教師として冷徹で厳格な演技を見せるところも、上手過ぎて怖いくらいでした。 あ、流れで先にネタバレしてしまいましたが、そう、モリッツは自殺という道を選んでしまうのです。そのモリッツを演じるJohn Gallagher Jr.くん。最高!モリッツは彼しか考えられません。歌も、気弱だったりユーモラスだったり、こいつかわいいやつ・・・と思わせる上目づかいの表情とか(笑)本当に上手い!メルキーを演じるJonathan Groffくんも、もう言わずもがなです。内に鬱屈した怒りを溜め込んでいるその表情とか、感情の爆発という感じの歌いっぷりとか、凄いです。素のGroffくんはあんなにおっとりしていてやわらか~い感じなのに、役になると化けますねぇ。そのモリッツと・・・1幕最後で"初体験"してしまうWendlaを演じるLea Michele。いや~、体当たり・・・ですね。話ではちらほら聞いていましたが。1幕途中でスカートをバッ!とまくりあげて白いパンツをはいたお尻をば~ん!と見せて(今時、あんな真っ白なグンゼみたいなパンツはいてる女の子、いませんよね)「私をその棒でぶって!」と言うシーンにしても、1幕最後でメルキーに半ば力づくで強要されるかのように(でもあれは一応、最後は合意なんですよね?)セックスしてしまうシーンにしても、体当たり。だって、舞台上でまともにワンピースの胸をはだけて両乳房丸出しで足を広げてしてしまうんですもの、凄いです(ちなみにメルキー役のGroffくんも生のお尻丸出し)。日本の若い舞台女優さんだったらまず出来ないでしょう。でも、その度胸だけではなくて、演技も歌も、彼女は素晴らしいのです。透明感。無垢。純真さ。それだけに妊娠したことがわかった時の「でもママ、私、結婚していないのに!」という台詞が痛切だったり、それを無理矢理あやしげな医師の手で堕ろさせられることになった時の「ママ、私を置いていかないでー!!」という叫びが悲劇的だったりします。『Les Miz』のEponineが決まっていたのを蹴って、On B'wayに上がってくるこの作品に残ったわけですが、それで正解だったと思います。 他にも1幕前半でとってもスバラシくて大爆笑のオ○ニーシーン(周りで女の子がぴょんぴょん飛びながら歌っているのが更に可笑しい)を見せてくれるHanschen役のJonathan B.Wrightくんや、そのHanschenと恋仲になって、がっつり男の子同士のキスシーンを見せてくれるErnst役のGideon Glickくんとか、ピアノの先生のバストが気になって仕方がないGeorg役のSkylar Astinくんとか、本当にどの男の子もとってもいいキャラクターを持っていて、どの役もこのキャストでなければ考えられない...!!というハマリ振りを見せてくれました。やっぱりOriginal Castって凄いですね。今のままのキャストでもう一度観たいのですが...無理かなぁ。半年後とかに行ったらもうかなり変わってしまっているのでしょうね。あ、女の子、Ilse役のLauren Pritchardもとても良かった。骨太!な感じがして。 ああぁ、なんだかまだたくさん書きたいことがあるのですが...長くなってしまったので今日はこの辺で。また書きます。滞在中、もう一度観に行きましたし。 Wed Evening MAR.28 2007 EUGENE O'NEILL THEATRE
by bongsenxanh
| 2007-04-16 02:57
| 観劇レビュ NY '06/'07
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Comments(4)
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stonedforlove at 2007-04-17 14:08
Marthaは誰でしたか?Wendlaとメルキーは"Now there" "Yes"ってのがあるので合意でしょうか。Stephen Spinellaさんのお隣に座ったのですが泣いたあと席に戻って涙をサッと拭って表情がキリッと変わったのを見たとき鳥肌でした。ステージ席ダメかも。関係ないところをキョロキョロしてしまいますから。初見の時は不覚にもこの辺りでもらい泣きをしてしまいました。
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bongsenxanh at 2007-04-18 01:57
♪stonedforloveさん・2
MarthaはJennifer Damianoちゃんでした。 私もWendlaが最後に"Yes"って言うのでまぁそうかなと思っていたのですが、あそこまでかなり拒みますよね(笑) Spinellaさん、本当に涙を流されているんですかー。私は席が遠くてそこまでは見えなかったのですが。間近で見たかったです。ステージシート、6月頭まで売り切れって言われちゃったんです。オケ席も全然いい席残ってなかったですし(泣)
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stonedforlove at 2007-04-19 00:12
ということはバックステージをビデオ撮ったのはご覧になれらた日だったのでしょうか?私は彼女をAnnaで見ました。実はAnnaとMarthaは誰でもいいよーなんて思ってます^^;
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bongsenxanh at 2007-04-19 01:17
♪stonedforloveさん
あー、どうなんでしょ?でもビデオがupされた日よりも結構前ですよ~?私が観たのは3月28日ですから。同じ週の土曜日に観た時はアンダーじゃなくてちゃんとLilliちゃんが出てましたし。 でもそうなんですよね(笑)>AnnaとMarthaは誰でもいいよー 私も初観がアンダーで、後からプリンシパルだったので、別にどちらでもいいなーって思いました。Girlsで重要なのはWendlaとIlseですものね(笑) でもメルキーとモリッツはGroffくんとGallagherくんじゃなきゃ、やだ(笑) JBWくんとGideonくんも出てなきゃやだ。と言うか、Boysはみんなオリジナルじゃなきゃやだ(笑) プログラム、ほしいですよね~!!
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by bongsenxanh
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