人気ブログランキング | 話題のタグを見る
『The Fantasticks』 And follow,follow,follow......
『The Fantasticks』 And follow,follow,follow......_a0054163_241682.jpgこれが私のオフ・ブロードウェイ作品観劇デビューでした、『The Fantasticks』。オフというのは客席数499以下の小劇場で公演される作品を言うのですが、ここSnapple Theater Centerはその中でも特に小さな劇場らしく、席数150強?くらいしかない、劇場というよりはリハーサル用のスタジオのような雰囲気でした。天井も低くて、本当に"小ぢんまり"しています。この写真に写っている、劇場の入口とは思えない小さなドアを入って、長~い階段をとんとんとん...と上がって行くとようやく劇場です。私はDiscout Codeを使ったせいか、3日前に土曜マチネのチケットを買ったせいか、あまりいい席ではなくて、ステージに向かって斜めの位置の後ろの方の席だったのですが、それでも小さな劇場なので十分ステージのすべてが見えます。そしてびっくりしたのは音。生なんですよ!役者さんたちはマイクなしの生声で歌うのです。伴奏もピアノとハープのみで実にシンプル。なんて嬉しい...!!B'way Actorのマイクを通さない生声の歌唱なんてそうそう聴けるものではありませんもの。



この作品、オフ・ブロードウェイ作品とは言え、古典とも言える作品です。初演は1960年5月と言うから、もう47年も前なんですね。2002年にクローズするまで実に40年以上もオフ・ブロードウェイでロングランされ続けて、2002年にクローズしてもまた4年を空けて昨年2006年7月にすぐリバイバルが始まった...ということは、本当に根強く観客から愛されている作品ということですね。私もこの作品を観たことはなかったのですが、高校生の時にドミンゴが『The Broadway I Love』というアルバムで"Try To Remember"を歌っているのを聴いたのを初めとして、折に触れてたくさんの歌手がこのナンバーを歌うのを聴いてきました。日本では少し前に宮本亜門演出で公演されていて、ヨシオ(あ、井上芳雄くんです)があちこちで歌っていましたね。

ストーリーは...隣の家同士に住む幼馴染のMatt(Boy)とLuisa(Girl)は惹かれ合っているが、互いの父親同士はいがみ合っている。けれどこれは見せかけで、本当は父親二人は昔からの絆で結ばれた大親友で、お互いの息子と娘が結ばれることを願うあまり、一計を案じてわざと敵同士の振りをしていたのだ。若い二人の気持ちを煽るために。両家の堺に高い壁まで立てている。障害があればあるほど恋が燃えるのを逆手に取っているというわけ。その父親二人の企んだ通り、MattとLuisaは恋に落ちているのだが、これを決定的にするために更に父親二人は策を講じてEl Gallo(エル・ガヨ)というあやしげな旅芸人の男を雇って狂言誘拐まで計画する。Luisaをわざと誘拐させてそれをMattに救い出させるのだ。若い二人はこのハプニングですっかり王子様&お姫様気分でお互いを運命の相手!と思い込んでめでたくハッピーエンド。...と、ここまでが1幕。けれど、父親二人の策略がそんなに万事順調に行くわけもなく、若い二人の気持ちもそんな"仕組まれた箱庭の出来事"だけで持続するものではなく、現実のもとに晒されていって...。

とってもかわいらしいお話なのです。それでいて、決して砂糖菓子のようなものでもなく、ほろ苦さもしっかり含まれていて。1幕ではやや大仰なおとぎ話のように演じられて、まるで演じている役者も観客もある種共犯めいた共同作業のような雰囲気もあって、それが2幕で現実のシヴィアさに直面させられる若い二人...というところに非常に効果的に活きてきます。紙に描いた太陽や月を使ってみたり、ぱらぱらぱら...と、ナレーターとThe Mute(=無声)という黒子に近い役割の役者が手動で雨を降らせてみたりするところもあざといくらいにオフの小さな空間を活かした演出で心憎いです。

ナレーターでもあり、同時にキーパーソンとなるあやしい男・El Galloを演じていたのはBurke Moses。ぎゃぁ!この人、『Beauty and the Beast』のオリジナルのガストンではありませんか!!ものすご~い美声で(いや、だから、私はバリトンの美声に弱いのです、本当に)鳥肌立ちそうなくらいに男のフェロモンびしばし発散していて、やばかったです。今回確信しましたが、私、ガストン役者に弱いですね。このBurkeもそうですし、Marc Kudischもそうですし、劇団四季の野中万寿夫さんもそうですものね。あの音域の美声の持ち主に弱いのです!(キャラとしてガストンが好きってことじゃないですよ!)My Darlin'あーろんもきっとガストンやれるでしょう!ちょっとキャラが違うけど!と、なんだか力説しちゃった私の好みは横に置いておかないと話が先に進みませぬ。El Galloはこの作品のまさに鍵を握る役で、ストーリーを牽引するナレーターであり、2幕ではLuisaをたぶらかして(Burkeにだったら私もたぶらかされた~い!!) 箱庭の外の世界へ連れ出して現実を見せたり、穢れなき世間知らずの女の子だったLuisaを裏切って恋の痛みも味わわせたりして、最後には作品の顔とも言える"Try To Remember"を歌ってお芝居を締めくくる、非常に美味しい役です。と同時に難しい役でもあって、でもBurkeは、ヴェテランの味でやすやすとこなしていました。素敵だった......(まだ余韻に浸っている...私も世間知らずの小娘Luisaと同じようなものなのかも?) この人の美声をマイクなしの生声で聴けたというのは、この上なく贅沢でした。幸せ。オフ・ブロードウェイって素敵。
『The Fantasticks』 And follow,follow,follow......_a0054163_3393821.jpgそれに対して、Boy meats GirlのBoy、Mattを演じていたのはDouglas Ullman,Jr.彼がまたルックスも、少しおとぎ話を思わせるこのストーリーの男の子にぴったりな甘めの爽やか美青年で。歌声もきれいに伸びるテノールで、文句なし。とても素敵なMattでした。2幕で、父親たちの策略に気がついて、日の光の元で色褪せて見えてしまったLuisaとも別れて一人世界に出て傷ついていく彼の姿は、とても痛々しくて見ているこちらが切なくなってしまうほどでした。適役。余談ですが、幕後にロビーで出演者全員が立ってドネイションをしていて、Douglasくんもいたので、思わず「とても良かったわ!」と声をかけてしまったら、とろけそうな素敵な笑顔で(お顔がきれいなんですよ、彼)「THANK YOU!!」って言ってくれて、ちょっとよろめきそうになりました。
Luisaはちょうど私が観たこの週くらいにreplaceしたばかりだったのかな?まだreplaceの正式発表は出ていませんでしたが、Julie Craig。本当は評判の良いSara Jean Fordで観たかったのでちょっと残念。Julieももちろんうまかったのですが、勝気で少し小生意気さの強いLuisaだったかな?という気がしました。Luisaってもともと強い役なのかしら?

舞台装置も学校の学芸会?というくらいにシンプルで、でもそのシンプルさがむしろこの作品の良さを引き出していて(特に1幕の"箱庭"感) お芝居の基本を見た気がしました。大げさな装置やきらびやかな照明は何もなくて、音楽の良さと脚本とそして役者の力だけで勝負する舞台。それこそがミュージカルのあるべき姿であり、原点なのだと。
いいもの観たなぁ...と幸せな気分で"Try To Remember"を小さく口ずさみながら帰りました。♪Follow,follow,follow......

『The Fantasticks』 And follow,follow,follow......_a0054163_421980.jpg
色気たっぷりのEl Galloさんは右端のお方。素敵...


Sat Matinee Apr.1 2007 Snapple Theater Center
by bongsenxanh | 2007-05-22 01:57 | 観劇レビュ NY '06/'07 | Trackback(1) | Comments(0)
Tracked from Hear My Heart at 2007-08-27 01:02
タイトル : The Fantasticks
Dec.3 2006 Snapple Theater Center,NYお帰り!『ファンタ』 たぶんたくさんの、この作品を愛する人々と同じ思いで目頭が熱くなった舞台。1960年5月から、42年のロングラン記録を打ち建て幕を閉じた、オフ・ブロードウェイミュージカルの再演だ。 ひと足先に観た友人からは、Sullivan St. Playhouse 時代の良さは変わっていないと聞いていたし、演出が作詞者であり、オリジナルキャストのTom Jones(この舞台でも老俳優ヘンリーを演じている)だというので...... more


<< 惹かれる惹かれる・・・ The Air of Romance >>


AX