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天才ということ―モーツァルト―または幸せについて
ここのところ『モーツァルト!』というミュージカルに半ば通うような形になっていたのですが、これを機に、もう一度彼の伝記を読み直してみたり、彼の作品を聴き直してみたりしました。

もともとどちらかと言えば私はモーツァルトの作品がそんなに好きではなくて、それはピアノを弾いていた頃に彼のソナタに苦しめられたとか(^^;) すごく難しい細かいオタマジャクシを一生懸命弾いてもちっとも技巧的にも華やかにも聴こえないとか、なんだかチャチで安っぽい感じになってしまうところが嫌だったとか、ベートーヴェンやショパンの方が性に合っていたとか、まぁ、いろいろ...逆恨みみたいな部分もあったのかもしれませんが、そういうこともあって彼の生涯そのものにもあまり興味がなかったので、深く知ろうともしなかったし、掘り下げて考えてみたこともなかったのでした。

でもかのアインシュタインは
「死ぬということはモーツァルトを聴けなくなるということ」
という言葉を残しているし
私のピアノの先生は
「年を取るとね、ベートーヴェンはもういい、と思うのよ。モーツァルトの方が安らぎがあるのよ」
とおっしゃっていたので(先生は不慮の事故でご夫君を亡くされていたので、そういうことも関係していたのか...と今にして思います)
私はまだ彼の音楽を理解できるところまで到達していない、ということなのかもしれません。
『魔笛』の"夜の女王のアリア"のコロラトゥーラは大好きで奇麗に歌えたらいいな、と思うけれど(歌えるはずもない...)。



今までの私の中のイメージでは、モーツァルトは「ナントカと天才は紙一重」の言葉通り、かなりいろんな面でタガが外れていて、浪費癖がひどくて放蕩の限りを尽くし、あちこちに愛人を作りまくって、更に借金も作りまくって、自ら命を縮めるような結果となって原因不明の病気で死んだ...という散々なものだったのですが、伝記を丹念に読み直してみたら少し違う色合いがあるような気がしてきました。
外郭だけなぞれば確かに上記の通りなのですが、その内面では彼にしかわからない彼だけの苦悩や葛藤があったのかな、と。
時代背景もあるのですが、あの時代の音楽家の地位というものは本当に低かったのですよね。今みたいに芸術に携わる人がもてはやされて高所得を得られる時代ではないのですから。貴族たちに"お楽しみ"を献上する"下僕"という程度のもので。
そして彼の才能を正当に評価するだけの審美眼(耳)を持つ者も数少なかった。それがプライドの高い彼にはどうしても我慢ならないことだったというのも容易に理解できるし、また同時に生活のために嫌な仕事でもしなければならなかったという状況も想像できる。にも関わらず、有り余る才能はどんどん内側から湧き出してくる...。でも自分が本当に作りたいものはなかなか作らせてもらえない。誰より自分が自分の才能に無自覚ではない、ということはつらいだろうなぁ...と思います。加えてそこに厳格で束縛体質の父親がいたりしたら...。

そんなわけで結局は「人並みの幸せ」にはおよそ縁遠い人生を送って、最後には墓石も墓標も立ててもらえないまま、共同墓地のどこやらへ投げ捨てられるような最後を迎えることになったのですが(それゆえ死因は今も謎のままで、暗殺説や自殺説などが語られている)
では、彼は本当に不幸だったのか...?
と思うと、やはりそうではないような気がするのです。
あれだけの作品群を書き残せて、そして生誕250年になろうとしている今になってもその名が残り、残っているだけではなく数え切れない人たちに愛されて、そして作品が演奏され続けているということは、決して凡人には成し得ないことなのですから。
それを幸せと呼ばないで何と呼ぶのかしら...?と。
例えば凡人代表の私などだと、おそらく死後孫の代くらいまでは名前を覚えていてもらえるかもしれないけれど、その次の代くらいにはもう名前もこの世から消えて、そして名前以外にも何も残るものはなく、見事なまでにこの世に存在した証拠はかき消えてしまうと思うのです。
それに比べれば後世まで自分の作品が生きているということはなんて幸せなことなんだろう...と思わずにはいられません。
凡人の目から見たら天才の人生ってなんて眩しいものなんだろう...。
(この辺りのことを描いたのがピーター・シェファーの戯曲『アマデウス』ですね)

などなどと、あれこれあれこれ考えていたりしたのでした。
でも...
天才の妻には、なりたくない(笑)
沢山愛人を作られて、その上、彼の死後は多大な借金を背負わされてしまったコンスタンツェはなんてかわいそうなの...と思わずにはいられないのでした。
世界三大悪妻なんて言われていますが、実はコンスタンツェはその死後、せっせとモーツァルトの借金返済に励んだ良妻なのですよー。
by bongsenxanh | 2005-10-28 02:27 | 音楽 | Comments(0)


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