きのうの世界
久しぶり?のような気がする恩田さんの長編新作。 東京からやや遠く離れたところにM町という町がある。 ここで一人の男が死んだ。 誰かに殺されたようだ。 この男は1年前の上司の送別会の夜に"失踪"していた東京の会社員だった。 このM町には不思議な塔が3つある。 何に使われていたのかも、その由来も、誰も知らない。 そのうちの1つは壊れて、それ以来修復もされないままだ。 M町には、住民たちも気づいていない何か秘密があるようだ。 この町に、「あなた」は今、足を踏み入れた―――。 以下、私の素朴な感想です。 ネタバレはありませんが、これから読まれる方で先入観を持ちたくない方は お読みになりませんように。 この本、私は中盤までは非常に興味深く読んだ。 少しぞくりとしつつ、夜中に読んでいる時はなんとなく背後が気になったりしつつ、 そんな心地で読み進んだ。 中盤までは、と書いたのは、後半と言うか、大詰めの辺りからがいつもの恩田さんの例に漏れず、ぐずぐずだったからだ。 とても惜しかったのと同時に、やや腹立たしいような気持ちにもなった。 それくらい、期待を裏切ってぐずぐずだった。 話としての整合性がまるで取れていないように感じた。 いや、この話はもしかしたら成功緻密なミステリとして読んではいけないものなのかもしれない。 それにしても。 あまりにもひどかった。もう少しなんとかならなかったのだろうか。 心の底から惜しまれる。 そこまでじわじわじりじりと炙り出され、狭められ、詰められてきたM町の秘密というものが 実にたいしたことないどうでもいい秘密だったのだ。 そしてその秘密の明かし方というのも、とても稚拙な方法だったのだ。 それぞれの人物の描き方は魅力的だった。 特に、殺された男・市川吾郎が私にはとても魅力的に映った。 平凡な顔立ちの中年男。 そこそこに有能で、会社の中で如才なくソツなく振る舞えるだけの処世術もある。 ただひとつ、他の人たちとは大きく異なる特殊な能力を持っている。 この作品で、序盤から気になって仕方がなかったことのひとつに人称の問題がある。 二人称と三人称が混在しているのだ。 もちろん、著者は意図してそう書いたのだろう。 けれど、最初の章から「あなたは~を目にする」「あなたは~に気づくだろう」「あなたは~と思う」という風に「あなたは」「あなたは」と連呼されるのは、かなり目障りだった。 読者を小説の中に引き込むための手法でもあろうし、装置でもあるだろう。 また、ある意味、読者を戸惑わせる効果も狙っているのだろう。「あなた」というのは読者のことなのか、あるいは小説の登場人物の特定の誰かを指しているのか。 ミステリ特有の不安感を煽る効果もあるのかもしれない。 けれど、私はあまり感心しなかった。 なんだろう...英文で書かれた小説を下手な翻訳で読まされているような不快感があった。 どうにも釈然としない読後感だった。 少し『ユージニア』と『光の帝国』(常野一族の物語)が混ざったような雰囲気を感じた一冊でもあった。
by bongsenxanh
| 2008-12-22 22:55
| 本
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