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『オペラ座の怪人』 ―珍しく四季の本気を見た日
先月末に観た佐野ファントムの演技と美声があまりに良かったので、「もしかしたらもう一度あの喉の調子がいい状態の佐野さんを観られるかもしれない...」と期待していた観劇。
しかし、そういう期待はたいてい裏切られるのが四季のセオリーなのです。
はい、裏切られました。
先週までは佐野さんがファントムを務めていたのに、今週から高井さんに代わってしまいました。
しくしくしくしく......。
しかし気を取り直して。
代わりと言っちゃぁ難ですが、クリスティーヌに沼尾さんがキャスティングされているではありませぬか。
というわけで、クリスティーヌだけは期待出来るぞ、と劇場へ赴きました。
本日のキャスト。

ファントム=高井 治  クリスティーヌ=沼尾 みゆき  ラウル=飯田 達郎

劇団四季は、12月に金曜ロードショーで放送される『オペラ座の怪人(映画版)』の日本語吹き替えを担当していて(既に収録済み)、今ちょっとこの作品に力が入っています。
そして、今週から登場の高井ファントムと沼尾クリスティーヌはまさにその吹き替えを担当したキャスト。
さて、その出来やいかに。



まずは沼尾さんからいきましょう。
今回、私のお目当ては彼女だったのですから。
もう何年ぶりに観るかわからないくらいに久し振りに観る沼尾さんのクリスティーヌ。
ちょっと喉を酷使し過ぎて痛め気味なのか、少しだけしゃがれた声で台詞を話し、歌っていました。
そう言えば去年、一昨年『ウィキッド』で観た時にも嗄らしたような声をしていたので、癖がついてしまったのかもしれません。
でも、高音域の伸び、響きはさすがでした。
ソプラノとしてはかなり細めの声で、バズーカ砲を打ちかますかのようなパワーはありませんが。
でもその分、可憐な雰囲気はよく出ていて良かったです。
やや"よい子のための歌のお姉さん"的な雰囲気もありましたが。
ただ、中低音域と台詞を話す声はちょっと頂けなかったですねー。
ボケを発する関西のおばちゃんみたいな感じになっていて、要は『ウィキッド』のグリンダ=コメディエンヌになってしまっていて、クリスティーヌとしてはそぐわない感じでした。
もっと品良く、もっと乙女ぶりっこしても良かったように思いました。
随所で見せる表情やしぐさなどの演技はとても繊細で良かったです。
ラウルのことが好きなのか、ファントムに惹かれているのか、どっちつかずでさっぱりわからない"曖昧クリスティーヌ"っぷりがよく出ていて、いかにもクリスティーヌ、でした。
ですが、ラストシーンの、地下でファントムに「(若造を取るか俺様を取るか)選べ!」と迫られて、逡巡した後にきっとファントムを見据えて彼にキスをする時の彼女は、確かに心はラウルにある、という雰囲気でそれもまた印象的でした。
最後の最後で決断をくだす→"夢見る少女"だったとっぽい女の子が成長した"一人の女性"になって究極の選択をする、というところがよく出ていて。
あとあと、やはりところどころ野村玲子さんに似ていますね、歌声が。
李香蘭デビューした時に本当にそう思いましたが。
声のしゃがれ方までもが玲子さんの喉の調子が悪い時にそっくりでした。

飯田くんのラウルは先月観た時と同じ。
普通に、ラウルでした。
あ、誉めています。
過不足ありませんでした。

さて、高井さん。
前々から書いている通り、この人のファントムからは、私は何にも感じないのですが。
いつも観る度に「歌がお上手なのねー」で終わってしまうのですが。
今日は、先述した金曜ロードショーのアテレコを経験した後だからか、前とは演技が変わっていました。
やたら暑苦しいと言うか、感情過多と言うか、よく怒り、よく怒鳴るファントムでした。
ただ、その感情過多な高井さんを観ていて逆に、私が今まで彼に何も感じなかった理由がわかりました。
高井さん、とんでもないだい●んなんですね?
芝居心が乏しいのですね?
どうしてそう思ったかと言いますと、彼が叫んだり怒鳴り散らしたりしていても、何も伝わって来なさ過ぎて白けてしまうのです、観客であるこちらが。
そこには、ファントムの恐ろしさも、おどろおどろしい妖気も、狂気も、色気も、そして悲しみもない。
何も滲み出て来るものがないのです。
だから、こちらの心も動かない。
あー、歌がうまいだけの人なんだなぁ...と思いました(すみません、大変失礼なことを承知の上で)。
ミュージカル役者には、歌とお芝居の両方が必要なのだ、と改めて感じた瞬間でした。
踊れればもちろん言うことはないですが、ま、踊りの少ない作品も昨今多いので。

そして本日は、アンサンブルが大変素晴らしかったです。
特に2幕冒頭のマスカレードなんてものすごく良かった。
ちょっとぞわっと背中を電気が走るかのような、良さでした。
あと、1幕幕開けの競売シーンの競売人を深見正博さんが演じていらして、その競売口上が非常に良かったです。
あのシーンって、プロローグだけれど、プロローグ以上の色々なエッセンスを含んでいると思うので、よく響く良い声で、渋い声で、きちんとオペラ座を仕切って、語ってほしいのです。
その点、深見さんはパーフェクトでした。
こういうところに、四季の本気を感じました。
えぇ、今回は本当に珍しく四季が本気モードになっているのを感じられましたの。
最近滅多にそういうものは感じられないのですが。
前に四季の本気を感じたのがいつだったか、もう思い出せないほど(たぶん3年か4年前の『EVITA』の時かしら)なのです。
毎回きちんとこういう風な舞台作りをしてくれればいいのに。

【追記】
今日、改めてタイトルソングとなっている"The Phantom of the Opera"は名曲だと思いました。
かなりメロウで、多分に歌謡曲的ではあるけれど。
こういうこってりと濃いドラマティカルな曲を書かせたら、アンドリュー・ロイド・ウェバーの右に出る者はいないのではないかしら、とまで思いました。
2幕の見せ場シーン、"The Point of No Return"もしかり。
一歩間違ったらものすごく陳腐になってしまうけれど、今日の本気モードの四季では、この2曲の良さが存分に発揮されていました。
例えオケが生ではなくて、録音テープによるものであっても。

そう言えば"The Phantom of the Opera"の最後のフレーズをクリスティーヌが歌いあげていく部分は、録音テープだということがわかり過ぎてしまってちょっと苦笑しました。
沼尾さん、それまでのしゃがれ声とテープの澄んだ美声とで差があり過ぎたのですもの。
更に言うと、口パクの仕方が不自然だったので。

Sat Matinee oct.30 2010 新名古屋ミュージカル劇場
by bongsenxanh | 2010-10-30 23:19 | 観劇レビュ 国内etc. | Comments(2)
Commented by aya at 2010-10-31 00:31 x
四季はねぇ、といいつつ、金曜ロードショーは絶対予約するわたしですが(お前がいうなとかもごもごW)、四季のこの作品を最後にみたのはいつかしら?

アンサンブルがいいならみたいな。
わたしはこの作品のポイントは
マスカレードとその前後を含めた
ザ・ポイント・オブ・ノーリターンだと思っているので。

アンサンブルがいいと、マスカレードもいいよね。
うわああ。
見たくなる!!!!

羽田たら飛行機なかったっけ?
Commented by bongsenxanh at 2010-10-31 22:37
♪ayaさん

本当、そう!
「四季はねぇ...」とか言いながらも、こういう本気モードの舞台が何年かに一度はあるから(何という低確率!)、つい、劇場へ足を運んでしまうのですよねー。
私もなんのかの言いつつ、金曜ロードショーは予約しますよ(笑)

アンサンブル、昨日は本当~に良かったんです!
あんなにもまとまっていてエネルギーのあるマスカレードは久々に観ました。
コーラスがしっかり響いていたし、皆さん一糸乱れず踊れていたし。

沼尾さんは派手さはなくて、むしろ地味なクリスティーヌですが、堅実ですよね。大きく崩れることはないし。
墓場シーンのファントムとのデュエットは素晴らしかったですよー。

羽田―名古屋路線は飛んでいません~。
私も東京在住の時、何度か「飛ばしてくれ!」と思いましたが。
新幹線と競合し過ぎていて、飛ばしても採算が合わないんでしょうねー。
あと、名古屋の空港は名古屋市内から離れているから、それもネックなのかも。


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