その最たるものだったのはこの作品。 日本では、もうさんざん観ていたのだけれど(最近は全く観ていない。最後に観たのは2008年夏)、シアターゴーアーの知人複数から「韓国は凄いよ!キャスト皆が歌える!ルキーニだって歌えるんだよ!」と聞いていたので、ぜひその韓国カンパニーのこの作品を観たいと思っていたのだ。 念願叶って。 今回の韓国公演は瑞草(ソチョ)のソウル・アート・センター内のオペラ・ハウスで公演されているので、内部はこの写真のように4階層の構造になっていてラグジュアリーな雰囲気。 で。 いやもう、圧巻!だったのだ。 BWでよくコピーとして使われている、Blasted!!!っていうのが一番フィットする感じ。 何が圧巻だったか、って、キャストの歌唱力! 歌える、歌える、と聞いてはいたけれど、ここまでとは。 歌えない人なんて一人もいない。アンサンブルの一人一人に至るまで、全員歌える。 これって本当に素晴らしいことだ。 (同じ極東の某国において、歌えない人のなんて多いことか) 特にこの『Elisabeth』のように"歌"に重きを置く、歌唱力によって作品の成否が分かれるような作品においては。 その、キャストの方々。 『The Scarlet Pimpernel』でも『Les Miz』でもハングル表記のみだったので、アルファベット表記をしてくれている作品の方が稀なのかもしれない。 私のお目当ては、エリザベート(シシィ)役のオク・ジュヒョン(Oak Joo Hyun)さんだった。 知人から「観に行くのなら、シシィはジュヒョンさんの日がいいよ」と教えてもらっていたのだ。 韓国の俳優さんについて丸っきり無知の私にとっては、知人から漏れ聞く情報だけが頼りだった。 逆に、無知な分だけ余計な先入観なく観られるのだから、あとは自分が観に行った日に観たキャストがすべてだ、それを真っ新の状態で受け入れて楽しもう、とも思っていた。 そのジュヒョンさんのシシィは......素晴らしかった! それ以外の言葉を見つけられないほど、圧倒的に素晴らしかった。 最初、無邪気で天真爛漫な少女として登場するシシィを瑞々しく演じていて、よく透き通った可憐な歌声がとてもよくマッチしている。 1幕中盤で、ハプスブルク家の皇帝に嫁ぎ、十分な覚悟もないまま"籠の鳥"になってしまった時に「誰のものでもない、この私は」と歌う、見せ場のソロ、"私だけに"は聴きごたえ抜群。 彼女が高音で「チャユーーーーーーーーーーーーー!!!」と最後のフレーズを歌い上げた時には、思わず両腕の皮膚の表面がぞぞぞぞぞっと鳥肌が立った。 こんなの、すごく久し振り。 いつ以来だろう? それほどまでに、最高の歌声だった。 あ、「チャユ」って「自由」ですね?それくらいの簡単な単語くらいしか知らないけれど、それでも十分に伝わる。 韓国版では、回り舞台(盆)を多用していて、このナンバーを歌う時にも、シシィは盆の上をぐるぐる歩きながら歌っていたのだけれど、これくらいのビッグナンバーだったら、あんなに歩かせないで、両足を踏みしめて立っている状態でがっつり歌わせてあげたらいいのに、とも思った。 そうしたら、どれほどのことだろう。 このナンバーを1幕ラストでもリプライズで歌うのだけれど、ジュヒョンさんは少女時代のシシィと、成熟した大人の女性になってからのシシィとでは、声のトーンを変えて歌っていた。 その辺りもまた、良かった。 そしてこの作品の重要な要である、トート。 パク・ヒョシン(Park Hyo Shin)さんという方だった。 俳優さんではなく、歌手(らしい)。 バックグラウンドを何も知らないまま観たけれど、彼もまた素晴らしい歌唱力の持ち主だった。 後から調べてみたら、韓国の若手男性歌手の中でも3本の指に入るか、という実力派(らしい)。 "バラード王子"とか言われている(らしい)。 中島美嘉の『雪の華』をカヴァーしたことでも有名(らしい)。 (らしい)ばかりで申し訳ないけれど。 まず、彼のトートを観た時、「若いな」と思った。 日本でずっと観てきたトートが、何しろあのお方(=祐一郎さん)なので、何となくトートって落ち着いた大人の男性の役だと思っていたのだ。 何しろ、黄泉の国の帝王なわけだし。 それに比べると、韓国のトートは本当に若い!という感じがした。 だってヘヴィメタ調の黒衣装に金髪ツンツンの頭なのだ。 実際、演じているパク・ヒョシンさんも若い(32歳)。 顔立ちはちょっと嵐のニノみたいな雰囲気がする時があった(後から知ったけれど、かなり整形しているらしい)。 日本のトート役者さんたちが、朗朗とした歌い方で、どちらかと言うとクラシカル方面からのアプローチで歌っていたのに対して、ヒョシンさんはガンガン攻めていくポップス-ロック調の歌い方でアプローチも違う。 けれど、「神は子どもの姿をしている」と言われるように、人間ではない、人間を超越した存在である"死"を体現するものが若者の姿であるのも、また自然なことかもしれない、という気もした。 そのヒョシンさんは、文句なしに歌が上手い。 本業が俳優ではなく、歌手なら当たり前なのかもしれないが、本当に上手い。 "最後のダンス"を歌う時に、トート自身もかなり踊りながら歌っていたけれど、ダンスもシャープでキレが良くて、ナンバーの最後のフレーズのアドリヴ(と言うのか、フェイクと言うのか、クラシカルの歌唱で言ったらカデンツァにあたる部分)もがっつり聴かせてくれて(こぶしが入っていて、ちょっと演歌調だったけど)、大満足だった。 お客さんからの拍手喝采が凄かった。 図らずも、2012年公演のLive RecordingのCDをすべて買うことになってしまったけれど、その3人のトートと比べても、ヒョシンさんが歌唱力の点では一番だったと思う。 とまぁ、とにかく主演2人の歌唱力に酔いしれた公演だったけれど。 もう一人、狂言回し役のルキーニ。 私が観た回で演じていたのはイ・ジフン(Lee Jee Hoon)さん。 知人にはもう一人のルキーニ・キャストのパク・ウンテ(Park Eun Tae)さんの方がお薦めよ、と言われていたのだけれど、ウンテさんが出演する回はやはり人気があるらしく、Sold Outばかりだった。 けれど、ジフンさんのルキーニも、かなり良かった。 ルキーニって歌える役だったんだ!というのが、とにかく大きな驚きで。 と言うのも、日本でルキーニを演じていた方があまりにも歌えない俳優さんで...誰とは申せませんが。 やはり、歌作品で歌えるっていうことは、必須条件だなぁ、と改めて思わされた。 韓国のルキーニは、2幕頭の"キッチュ"での客いじりも、とてもお上手だった。 "愛と死の輪舞(ロンド)"を、トートのソロで歌って欲しかったのに、最後の方がシシィとのデュエットになっていたところとか、トートが登場する吊り橋?みたいなのがやたらエレクトリックだったのが「・・・」という感じだったのとか、ところどころ韓国版でも残念なところがなかったわけではないけれど。 でも、シシィが皇室に入って、最初は皇后ゾフィーの言う通りに動かなければならないシーンの、"マリオネット(操り人形)"の演出はとても良かったし、シシィの"星のドレス"が実際の肖像画にかなり忠実に作られている辺りも非常に良かった。 衣装は特に、日本版よりも力が入っている感じがした。 トートがルドルフに"死"を与えるシーンでは、銃を発射させるのと同時にキスしていたのが印象的だった。 すごく、冷酷な感じがして。 日本ではこのシーン、確かキスをした後に発砲させて、ルドルフががっくり息絶える...だったと思う。 韓国では、ミュージカルがまだ、日が浅くて新しいエンターテインメントだからか(日本よりも、劇場建設や進出が遅かったと思う)、キャスト全体が若い印象だった。 特に皇后ゾフィーは、歌は歌えて艶やかな声の女優さんだったけれど、もっと年のいった熟年の女優さんが演じた方が味の出る役だと思う。 あと、韓国の俳優さんたちは、感情表現がストレートで熱く激しくて、それはそれで良いのだけれど、時に直情的になってしまう傾向もあると思う。 この作品で言うならば、2幕の後半などは特に、もっと陰影のある、もっと心の細かい機微までもが伝わってくるような演技も欲しいな...と感じたりもした。 ともあれ、存分に堪能した観劇だった。 Sat Evening Aug.17 2013 Seoul Art Center-Opera House
by bongsenxanh
| 2013-09-04 22:26
| 観劇レビュ 韓国
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