今回のこの展覧会は愛知県美術館の企画によるもの(公式webはこちら)。 昨年6月の札幌を皮切りに仙台、広島、静岡と巡回して来て、この愛知が最後。 シャガールはその生涯が長く(97歳まで生きたのだ!)、作品数も膨大なため、色々な切り口からのアプローチ及び展覧会企画が可能な画家だと思う。 今回は彼が手がけたパリ・オペラ座(オペラ・ガルニエ)の天井画をメインに据え、彼と歌劇場の関わり、大聖堂のステンドグラス等の大物にスポットを当てた展覧会。 力のこもった良い企画だったと思う。 とりわけ力が入っていて素晴らしい...!と思ったのは、メッス大聖堂の薔薇窓のステンドグラスを、その形のままに再現して展示したものと、前述のパリ・オペラ座の天井画や、ランスのノートルダム大聖堂のステンドグラス、ニース大学のモザイク画等を巨大なマルチスクリーンに映し出す企画。 このプロジェクションは本当に白眉だった。 日本の技術力は、本当に素晴らしい...! (今回のこれは、トヨタさまの協賛があって出来たことらしい。お金かかってました) 日本の美術館の一室から、どこか別の空間へトリップしたような時間だった。 バックにラヴェルの『マ・メール・ロワ』第5曲『妖精の園』と『亡き王女のためのパヴァーヌ』が流れていた。 マ・メール・ロワはいいけれど...パヴァーヌはちょっとその趣旨から考えて、違うのでは...? 曲想のみで選んだのでしょうけれど。 もうひとつ。 私が息を呑んで食い入るように見つめたのがこれら。 IZISという、シャガールと同じ東欧系ユダヤの写真家が撮ったもの。 シャガールは彼に全幅の信頼を置いていたそうで、歌劇場の仕事を手掛けている時も、彼だけはシャガールのアトリエに入ることが出来たのだそうだ。 つぶさにシャガールに迫った写真には、シャガールが巨大なパレットを使い、そこに絵具を指で溶いている姿も写し出されている。 更には、シャガールは絵筆を使わず、指で直にキャンバスやゴブラン織りの布に絵具を塗りつけていたりもして、非常に興味深い。 シャガールじいちゃんは、常に描くことを楽しんでいる様子だ。 数年前に観た東京藝大美術館のシャガール企画展も、やはりメトロポリタン・オペラの柿落しの仕事にスポットを当てていてとても面白かった。 今回の展覧会もそれと同じように、三原色をメインにした(シャガールの絵は、本当に中間色が少なくて、青!赤!黄!というものが多い)恋人たちや馬やロバや鳥だけではない、シャガールの別の姿を見せてくれた。 最後に、私が一番惹かれた絵を。 個人蔵の作品だった。 こういう絵が自宅にある人は、それは幸福なことだろう。 P.S.制作風景の写真と同じ展示室に、シャガールの手形があった。 その実物の手形のコピーも置いてあり、 「こちらは手を合わせても結構です」と書かれていたので、 嬉しくなって「よっしゃぁ!」とばかりに自分の手を重ねてみた。 シャガールの手は、一本一本の指が長く、縦長の(横幅はそんなに広くない)大きな手だった。 私はまた嬉しくなって、シャガールじいちゃんの手の大きさと自分の手の小ささを味わっていた。
by bongsenxanh
| 2014-06-08 12:55
| 美術
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Comments(8)
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kana-cat
at 2014-06-08 19:53
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私も見に行ったよ~。そして図録も買いました、珍しく。
県美、やるじゃん(上から目線・・・笑)。 いつかニースに行ってみたいな~。一緒に行きません?うふふ。
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bongsenxanh at 2014-06-09 01:17
♪kana-catさん
あ、行ったんだ~! もし行っていなかったら、「いいよ」ってお勧めしたいくらいだったので(と言っても、今日で終わってしまったけれど)、訪問済で良かったです^^ いい展覧会でしたよね~。 私は図録は買わなかったのだけれど、この写真集には本当に惹かれてしまって。 画家が情熱を傾けている姿を記録したものって、貴重よね。 ニースかぁ...ニースもいいけど、私はあのステンドグラスがある、ランスにも行きたいのよね。 ランスにはルーヴルの別館も出来たしねー。 ベルギーから近いフランスで、この間、割と近くまで行ったんだけどね、惜しかったです。 フランスも行きたいし、ヘルシンキもストックホルムも行きたいし、行きたいところだらけなのだけど、経済力が追いつきません。
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tentenko
at 2014-06-09 15:46
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こんにちは、シャガール展の感想を探していてたどり着きました。
私も先々週に展示にいきました〜素敵でしたね〜。 日本では愛の画家というイメージが強いシャガールですが、調べてみるとお孫さんのメレットさんは祖父を愛の画家と言われたくない...という意見もおっしゃっているようで、モニュメンタルな仕事を通して人々に平和や喜びを伝えることが彼の意思だったのだろうと今回感じました。 映像の部屋、私もじっくり見たときに亡き王女のパヴァーヌは主旨にあうのかな...?ともおもったのですが、こちらも調べるとこの曲は特定の王女への追悼曲でもなんでもないようですね。ノスタルジアを全体的に表現した曲のようで...。シャガールを巡る旅、と名打ってありましたし、彼の心の故郷へ還って行く意味もたせたのかな...と勝手に解釈しています。
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bongsenxanh at 2014-06-09 22:49
tentenkoさん
こんばんは、初めまして(ですよね?) シャガール展、良い企画でしたね。 亡き王女のパヴァーヌに関してですが、あの曲はもちろん、葬送のためのものでも追悼のためのものでもありません。舞踏曲の一つです(一応、音楽をかじった者ですので...) もともとはラヴェルがベラスケスのスペイン王女の絵(ご存知でしょうか?)にインスパイアされて、あの王女(マルガリータ)のことを頭に思い描きながら作曲したパヴァーヌのはずです。 彼女に捧げられたもの、というわけではありませんが。 そういったことも踏まえて、あのイスラエルのシナゴーグのユダヤ12部族のステンドグラスや、ニース大学の知恵の英雄オデュッセウスを描いたモザイク画には似つかわしくないな、と思ったのです。 説明足らずで言葉不足なようでしたら、失礼致しました。
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tentenko
at 2014-06-10 00:19
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お返事ありがとうございます。こちらこそ、初めての書き込みで不躾な事を申し上げたしまったかなと...お気に触られたようでしたらすいません。
私は美術の仕事をしている側で音楽への知識は未熟のため、詳しくご説明いただきありがたいです。ベラスケスのマルガリータ王女の絵から想起されたものだったのですね。 あの映像に対して音楽の直接的な結びつきはないのかもしれませんね。ご説明ありがとうございました。
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Kcouscous at 2014-06-10 10:42
この展覧会は本当によくできてましたね。私が見たのは去年ですが、おかげでまたいろいろ感じたことが蘇ってわくわくしました(^^)v
図録は買ったけど、この写真集は売ってなかったなあ。。。残念。作家の仕事場とか制作風景はとても興味深いものですよね。天井に直接描いたわけじゃなかったから、ミケランジェロのように頸椎は傷めなかったかもしれないけど、巨大な作品ばかりでジャガールじっちゃんも相当、腰や背中がつらかったんじゃないでしょうか。それでも描くのはやめられない、という感じでしたね。 私がいちばん惹かれたのははシナゴーグのステンドグラスの下絵でした。
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bongsenxanh at 2014-06-11 07:12
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bongsenxanh at 2014-06-11 07:23
♪Kcousさん
お、Kcousさんもご覧になりましたか! 良かった^^ 今回の展覧会は、日頃良いもの・大規模なものが東京・大阪などの大都市に偏りがちな中にあって、愛知県美企画、地方都市を巡るというところも良かったです。 そうなんです、画家って通常であれば仕事場や製作風景なんてそうそう公開するものではないですよね。 それをああいった形で見ることが出来るというのは、興味深かったです。 また、私もKcousさんと同じくミケランジェロのことも思い浮かべました。 システィナ礼拝堂の天井画を描いている間に、ミケランジェロは体も痛めましたし、目に垂れた絵具が入って辛い、とも言っていましたよね。 確かあの仕事の後、視力がかなり落ちたのではなかったかしら。 シャガールじいちゃんがそんな目に遭わなくて済んだのは何よりでした。 でも最終仕上げは、やはり組まれた足場の上に椅子を設えて天井を見上げて筆を揮っていましたね。 シナゴーグのステンドグラスの下絵...Kcousさん、惹かれ所が通ですね(笑) あそこはシャガールの信仰心と言うのか、精神世界が垣間見えるところでしたね。
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by bongsenxanh
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