我が県では上映している映画館はわずか1館、1日1回のみの上映になっており、それももう今週金曜日で終了。 というわけで、慌てて駆け込みで観に行って来ました。 自分の住む地域からかなり遠いその上映館まで。 で、自分でも忘れていたのですが、私は血が飛び、肉弾けるスプラッタ映画は、この上もなく苦手だったのでした。 そしてこの作品は、まさにそのグロテスクの極み。 もう、心臓に悪くて、耐えられなくて。 そういうわけで、申し訳ないのですが、大半の戦闘シーンは目を閉じてやり過ごしました。 その割に、私は戦争映画と呼ばれるものは結構観ておりまして。 この作品のパブリシティでよく引き合いとして名前を出されていた『プライベート・ライアン』も映画館で観ていますし、ヴィエトナム戦争関連では『地獄の黙示録』、『7月4日に生まれて』、『グッドモーニング、ベトナム』他、湾岸戦争では『戦火の勇気』、イラク戦争では『アメリカン・スナイパー』と(多分、他にも色々観ている)戦闘シーン炸裂の映画を結構観て来ているはずなのですが。 それでも、今回のこの作品の戦闘シーンは駄目でした。 ひたすら目を閉じて身を固くしていることしか出来ませんでした。 そして考えていたことは 「早くこの悪夢が終わってほしい」 「戦争ダメだ、戦争ダメだ、戦争ダメだ」 という、ただこれだけの、シンプルな願いと言うか、祈りに近いものでした。 本当に、それだけでした。 そう思わせたことで、反戦映画として成立しているということになるのかもしれません。 そして、あちこちで言われているのですが、この作品、予告の段階では沖縄戦だということを明らかにしていなかったのですが(沖縄県民の方に配慮して、とのことだそうです)、舞台となっているハクソー・リッジは沖縄の浦添市にある前田高地のこと。 その地を舞台に繰り広げられた激戦が描かれています。 当然ながら、米軍側からの視点で描かれているので、日本兵は敵軍。 で、私がひたすら身を固くして耐えていたあの戦闘や爆撃は、沖縄及び日本に向けて行われたもので。 つまり、あの激しい攻撃は、すべて私たち日本人に、私に向けて、加えられている、と。 そう思ったら尚更、とても普通の感覚では観られませんでした。 そして、これは私に知識がなかったことなのですが、沖縄戦の時点で既に、米軍はナパーム弾をガンガン投入していたのですね。 てっきりあれは、ベトナム戦争から導入された兵器だと思っていたのですが。 それに加えて、あの悪魔の様な火炎放射器の使用。 何かもう、思考停止して、ひたすら何かに祈らずにはいられない様なシーンばかりでした。 つらかった。 メル・ギブソン、クレイジー…。 本題はここからなのですが。 この戦闘の中で"良心的兵役拒否者"として、武器を持たない衛生兵として従軍したデズモンド・ドスが主人公。 アンドリュー・ガーフィールドが演じています。 彼は敬虔なキリスト教徒(セブンスデー・アドベンチスト教会の信徒)であり、自分の信仰と少年期の経験から、決して武器を持たず、人を殺さないことを信条としている。 そもそも私の知識不足で、衛生兵って、武器を持たず、前線から一歩引いたベース・キャンプの様なところで看護活動に当たる役回りだと思っていたのですが、実際は彼らも前線に他の兵士と共に立ち、武器を持って戦うのですね。 (そう言えば『戦火の勇気』のイラリオ(マット・デイモンが演じた)も衛生兵だったっけ) それゆえ、デズモンドの兵役拒否が問題になり、軍法会議にまで発展してしまった、と。 結果的にデズモンドは許可を得て、従軍して沖縄へ赴くわけだけれど。 そして、その過酷な戦場で、仲間が撤退した後も一人残って、負傷して置き去りにされた兵士たちを一人一人担いで救助するのだけれど。 何も信仰を持たず(哲学として仏教は凄いと思っているけれど)、戦争なんか嫌だ、と思っている私には、そもそも彼の「武器を持たず、戦闘はしないけれど、戦場へ行く」という選択がどうしても解せないものでした。 「衛生兵として負傷兵を救いたい」という思いは貴いと思うけれど、それでもやはり、理解できず。 上官に叱責されようと、同じ隊の兵士たちに嫌がらせや暴行を受けようと、そしてどんな極限状態に置かれようと(敵が銃を持って迫って来て、自分の命が危うくても)、絶対に武器は取らないということが、わからなかった。 それならばなぜ敢えて戦争に加わるのか、と。 更に言えば、自分は銃を取らないけれど、自分の仲間が銃を持って戦うことに対しては異を唱えないわけで、それは容認すると言うのは、矛盾しないことなのか?と。 詰まるところそれは、「汝、殺すなかれ」とある教えに背くことにはならないのか? 自分が殺さなければ、他の人がすぐそばで誰かを殺していても構わないということなのか?と。 その辺りが、私には飲み下せなかった。 戦場で、負傷兵を75人も救い出したという彼の功績は大きいと思うけれど。 (映画だから、もちろん脚色は入っているし、美化されている部分もある) そして彼のその勇気ある行動と人道主義に感銘を受けたのも確かだけれど。 その貴い行為を描き、そして彼を"戦争の英雄"として描くことで、この映画はやはり、米国の米国による米国のための映画なのだなぁ…と、つくづく感じました。 アンドリュー・ガーフィールドは、最初、あの『ソーシャル・ネットワーク』の彼だとは気付かず。 『アメイジング・スパイダーマン』も『沈黙-サイレンス-』も彼なのだけど、そういったものをまるで思い出させず、この作品ではひたすら、ちょっと頼りなさそうにへらっと笑っているひょろっとした衛生兵のデズモンド・ドスで。 いい役者さんだなぁと思わされました。 するりとその役になっていて、カメレオンの様な俳優さんですね。 この作品ではまるで10代後半の少年の様に見えたのですが、実際にはもう33歳なんですね。見えないなぁ。 他に彼の父親役(第1次大戦に従軍し、PTSDに苦しんでいる)でヒューゴ・ウィーヴィングが出演していて、おぉ、ヒューゴ!久し振り!って感じでした。 『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのエルロンド卿ですね。 あと、『マトリックス』のエージェント・スミスね。 このヒューゴが、デズモンドが銃を持たないことの1つの要因ともなっているのです。 デズモンドと同じ隊の同輩スミティを演じていたルーク・ブレイシーも良かったな。 デズモンドが恋するドロシー(後に妻となる)を演じたテリーサ・パーマーも。 ところで、作品の終盤で、日本兵が白旗を上げて、裸にふんどし姿で両手を上げて降参する…と見せかけて、米兵を油断させたところで手榴弾を投げつける、という卑怯極まりないことをやっていましたが、あれは沖縄戦及び太平洋戦争中に本当にあった行為なのでしょうか。 更に、もはやこれまで…と悟った日本軍の長(伍長なのか、軍曹なのか、大尉なのか大佐なのか、その辺は不明)が、壕(ガマ)の中で切腹をし、彼の下士官が介錯を務めて首をバサーッ!ゴロッ。というシーンがありましたが…あれは何? 確かに、太平洋戦争末期に敗北を悟って自害する軍人は大勢いたけれど…。 介錯も、あそこまで刎ねちゃわないと思うけれど…江戸時代までの作法であれば、首の皮1枚残さなければいけないのよね、沖縄戦の切迫した戦場ではそんな余裕もないでしょうけど。 やはり外国の監督的には、日本のハラキリを撮影してみたかったのでしょうか。 観た後にも、感動した、素晴らしかった、なんて安直な感想は浮かばなくて、何かもやもやしたものが残る作品でした。
by bongsenxanh
| 2017-08-05 01:27
| 映画
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