お馴染み(?)『屋根の上のバイオリン弾き』です。
そもそもは今回(2004/10)の観劇予定の中には入っていなかったのです、この作品。METの『ワルキューレ』、『WICKED』、『Avenue Q』はあらかじめチケットを押さえておいたのですが、残り1日は空けておいて、その時の気分でチケットを取ろうと思っていたのです。 自分の中では、たぶん『WICKED』をもう一度観たくなるだろうなーと予想していて。結局その通りだったのですが、残念ながら『WICKED』はSOLD OUTで正値でもこの日の分はもう手に入らない。というわけで、ともかくこの最後の一日は3時からのTKTSの売り出しに並んでみて、取れたものを観る、という流れになったのでした。 それでも心の中で『PRODUCERS』か『Hairspray』あたりが観たいな~なんて思いつつ、3時過ぎくらいにTKTSへ行ってみたのですが、この日はそのどちらもTKTSでの売り出しはナシ!!そうです、ウッカリしていたのですがこの日は金曜日。週末なので平日よりも割引チケットが売り出される数が少なかったんです。仕方がない・・・そろそろ集中して英語聞くのも疲れてきたし、ここはひとつストーリーも曲も知り尽くしている『Phantom of the Opera』でも観ておくか・・・と思ったのですが 、その『Phantom~』でさえもこの日はTKTSでの売り出しはナシ。最近ではチケットが売れなくなってきている様子だったのに・・・。金曜日のチケット獲得はなかなかキビシイのでした。しとしとと冷たい雨が降る中、1時間半くらい列に並びながら、どうしよう・・・と考えていて、目に留まったのがその日の売り出し作品の電光掲示に浮かんだ『Fiddler~』の文字。他に『RENT』や『BEAUTY&BEAST』もあったのですが、それらよりも『Fiddler~』の方が魅力的に映ったのでした。そうだ、『Fiddler~』があったんだ!!ようやく自分の順番が来たときに窓口のお姉さんに「ハ~イ、『Fiddler~』は残ってる?」と訊いたら、「あるわよ!ラッキーね、2階メザニンのセンターよ!」 と微笑んでチケット1枚お買い上げ、となりました。 夜、公演されているミンスコフ・シアターに行って席へ案内されてみると・・・お姉さんのうそつき・・・。センターじゃなくていちば~ん左の端っこの席なのでした。いやいや、でも2階メザニンの一番前だったので、ま、いいか。 実は私、日本では『屋根の上のバイオリン弾き』観たことありません。理由はいろいろあるのだけれど、イメージとしてなんだかすごく泥臭い感じがして(あくまで私の中での勝手なイメージです)作品として魅かれるものがあまりなかったのと、東○製作の、あの商業演劇!!っていう感じの独特の宣伝ポスターを観るとなんだかイヤ~な気分になってしまう・・・というのが大きかった気がします。キャストの顔ぶれを見ても、いつもたいてい、ちょっと売れなくなってきたアイドルor流行歌手がメイン3人の娘にキャスティングされていたりして、尚更観る気をなくしていたのでした。 でもそんな私がBWでなぜこれを観る気になったかと言うと、2004トニー賞の授賞式でのパフォーマンスが素晴らしかったから。授賞式では幕開けのナンバー『Tradition』を披露していたのですが、そのアンサンブルの凄いことといったら!30人前後くらいのアンサンブルの、誰もが絶対音感を持っているに違いない、というくらいのハモリと響きだったのです。 そして演出はデビッド・ルヴォー。ストレートプレイの演出が多い、という印象だったのですが、最近はミュージカルの演出も手がけているんですね。彼の演出、目を見張るほどセンスが良くてスマートで、私は大好きなんです。なので、トニー賞授賞式でのパフォーマンスで醸し出されていた洗練された雰囲気も、彼の演出と聞けば納得。 さて、その舞台本番は・・・ 新しいテヴィエ(主役)を演じているのは映画でも活躍しているアルフレッド・モリーナ(Alfred Molina)。最近では『スパイダーマン2』の、背中に機械の手がくっついちゃう博士の役をやっていた、あの俳優さんです。 ちょうど行きのフライトの機内映画で『スパイダーマン2』観たばっかりでグッドタイミング。彼のテヴィエ、今までのテヴィエ役者さん(ex.91年リバイバルで不動の地位を築いたトポル)よりはかなり若いテヴィエなのですが、その分、おちゃめというか子供心のあるテヴィエで、またいい感じに肩の力が抜けていて快演!という感じ。誰もが聴いたことのあるあの有名なナンバー『If I Were a Rich Man』も実に洒脱に歌って聴かせてくれました。映画でもちゃんと演技が出来て、舞台ではしっかりと歌も歌えるなんて、多才ですね~。それにテヴィエは常にユダヤの神に問いかける、という形で上を見上げて観客に語りかけるので、この日の2階席前方という席はこの演目を観るにはベストポジションだったのでした。 更に前述した通り、アンサンブルのコーラスがものすごくいいんです!耳だけではなくて体全体に響いて聴こえてくるような、そんな共鳴するコーラス。凄いなぁ・・・という単純な感想しか湧いてこないほど見事なコーラスでした。さすがはブロードウェイ。 そしてそして。デヴィッド・ルヴォー・マジックと呼びたくなってしまうような美しい舞台。舞台装置はもちろん彼ではなく舞台美術さんが別にいるのですが、確実にデヴィッド・ルヴォーの意を汲んでデザインされたであろう舞台装置と空間の使い方がとても素敵なのです。センターに配された板敷きの床とその周りを囲む白い細い木立。板敷きの床には右手から桟橋のような登場用の廊下(のような通路)が伸びていて、センター左寄りから舞台奥に向けてもやはり通路が伸びています。舞台右手奥には観客に見える形でオーケストラが。舞台上にオケを登場させてしまう斬新さがルヴォーらしいです。これらを抑えめの藍色の布で取り囲んでいて、やはり抑えめの暖かい色味のライトが照らします。天井からいくつも小さめのランプが吊り下がっていて、これは時として家々の明かり=家庭を象徴するものにもなります。(うーん、舞台の様子を描写するのって難しいです・・・)センターの板敷きの床を舞台の中の舞台、つまり劇中劇の形に見立てているようでした。扱っている帝政ロシアのユダヤ人迫害というテーマが今となってはもう色褪せてきているから、かもしれません。ともあれ、この美しい舞台装置、なんだか1枚の絵画のようでした。 それが際立ったのはテヴィエが娘の結婚を許すために「夢を見た」と妻に話す夢のシーン。色とりどりの幽霊たちが登場するのですが、鶏のトサカみたいなのをつけた幽霊や他のピエロのような幽霊たちの衣装もカラフル!まさに絵画的な色彩感に溢れたシーンで、シャガールのカーニバルの絵からインスピレーションを得たんじゃないかな・・・という感じでした。 ユダヤ人の迫害云々というところを除いて見れば、これは「しきたり」を守って生きてきた一人のお父さんが、娘たちの結婚や将来の選択の仕方にちょっと手こずって右往左往しているというファミリードラマなんですね。加えて、お父さん自身の結婚生活を省みてみたりもして。その右往左往するお父さん=アルフレッド・モリーナが本当にチャーミングでした。あと、長女の夫の仕立て屋役を演じるジョン・キャリアーニ(John Cariani)がかなりいいコメディアン振りを発揮していました。 大満足のコーラスだったし、いい舞台観たな~と、思わぬ見つけものをしたようなほっこりした幸せな気持ちで家路につきました。舞台ってやっぱりいろいろ観てみるものですね。 15OCT2004 Minscoff Theatre
by bongsenxanh
| 2005-10-31 21:24
| 観劇レビュ NY '04/'05
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