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大人になる
「私も大人になったなぁ・・・」と実感する瞬間って、誰しもあるのではないだろうか。
私にとってのそれは、艶めいたことではなく、Four Rosesというバーボンだった。
東京で大学を卒業して、とあるメーカーに入社してしばらくしてから、ジャズを聴きに出かけるようになった。
仕事も不慣れで、平日は疲労困憊・・・ということも多かったので、そんなに頻繁には通えなかったけれど、贔屓のジャスシンガーが出来て、彼の歌聴きたさに田町にあるジャズクラブに足を向けるようになったのだ。
ふわっとした、ジャズ向きではなさそうな柔らかい声で歌うシンガーだった。
シャイな男の子でCDの盤面にサインをしてもらう時に「Dear Hueって書いてください」とリクエストしても、赤面して「Dear Hue san☆」と書くようなシンガーだった。
そのクラブはゆるやかな会員制になっていて、ボトルキープを1本入れることで会員になり、そうしておけば月々のプログラムの案内を送ってくれたり、ミュージックチャージの会員優待を受けられるというシステムだった。
初めてそのクラブに行った晩に「ボトルをキープしてください」と言われ、内心ドキドキしながらボトルメニューを眺めて選んだボトルがFour Rosesのブラックだった。
ワインやカクテルを飲むことはあってもウィスキーやブランデーをあまり飲まない私でもなんとか馴染めそうな酒に思えた。
クラブにボトルを入れるなんて、居心地の悪い何かがあるようでもあり、途轍もない大冒険をしたようでもあり、でも自分の名前が書かれたタグがかけられたFour Rosesのボトルを見た時には「あぁ、これで私も一歩大人の仲間入りをしたのかもしれない」と思ったりもした。
その後、何度もそのクラブに通い、自分のボトルから酒を注いでロックでちびちび飲みながら、彼の歌声に聴き入ったりした。

時は流れて、私の身辺でもいろいろ変化があり、クラブから足が遠のいていた頃、一通の葉書が届いた。
クラブを閉店する、という知らせだった。
キープしてあるボトルはそれまでの来店がなければ処分させて頂きます、と書かれていた。
慌しくしていたので結局来店できないまま、そのクラブは閉店した。
今はもう、ない。
あの頃好きだったシンガーもかなりの売れっ子になってしまい、最近は生で聴くことはほとんどなくなった。
あの時の私のボトルはどうなったのだろう・・・と思う。
処分はもちろんされただろう。
けれどまだ1/3ほどの量が残っていたはずなのだ。
他の客に出すということはあり得ないので、流しに捨てられたか、あるいはスタッフの楽しみに供されたか。
願わくば後者であってほしいと思う。
私を少し背伸びさせてくれて、大人の気分を味わわせてくれたFour Rosesが最後の一滴まで飲み干されたのだとしたら、幸せだと思う。
by bongsenxanh | 2005-11-22 01:57 | 音楽 | Comments(0)


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