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『逃亡くそたわけ』 絲山秋子 著 中央公論社
しっかり書こうかと思っていたのに、猛烈な眠気に襲われております・・・・・・。
あぁ、視界が上瞼に遮られるのはなぜかしら・・・・・・。

ようやく読みました、『逃亡くそたわけ』。



汚いタイトルですね、はい。名古屋弁は汚いのです、はい(^^; 最初にお断りしておくと、名古屋弁を話すのは名古屋市内とその周辺地域の方たちだけです。愛知県民すべてがあの汚い言葉を話すわけではありませんので、誤解なきようお願いします。そして語尾に「みゃぁ」とか「ぎゃぁ」とか付ける方は稀です。中高年世代だけなんじゃないかしら。更に付け足すと、愛知の中でも地域によって話される方言は違います。三河弁だったり尾張弁だったり。
・・・と、かように力説するのはなぜかと申しますと、私自身が愛知県出身だからなのです。自己弁護というわけですね(笑)ちなみに私は母が他県人だったこともあって、土地の言葉はほとんど話せません。子供心に「この辺りの言葉は汚い言葉だ」と思って育ちました(嫌な子供ですねぇ)。
ということをつらつらと述べるのには理由があります。この小説には博多弁を話す21歳の女性・花ちゃんと、名古屋出身だけれどそれを強く否定したがっている24歳の男性が登場します。この二人、花ちゃんが躁であり、男性が鬱であるという個性の強いコンビで、ある日行きがかり上二人で入院していた精神病院から逃亡します。
この男性の方の「名古屋出身だけれど、それをともかく否定したい気持ち」というのが、私にはものすごくよく理解できて近しいものに思えて、ひたすら彼に移入しながら読みました。わかる、わかるよ、その気持ち・・・と、肩をポンポンと叩いてあげたくなってしまうような。しかも彼はそれだけ名古屋を忌み嫌っているのにも関わらず、皮肉なことに精神病院のみんなから"なごやん(名古屋名産のお饅頭?)"というあだ名までつけられてしまうという、かわいそうな人なのです(ちなみに私、"なごやん"って食べたことないです)。名古屋って、適度に都市ではあるのだけれど、でもどうも閉鎖的な土地柄と県(市)民性を持っていて、人がヘンに保守的で、妙に押しが強くて、そしてお金にうるさい・・・という雰囲気のあるところなのです。どうも今ひとつ垢抜けていなくて、井の中の蛙っぽい、と言うか。言いたい放題で申し訳ないけれど。その実感が私にあるだけに、なごやんの気持ちが手に取るようにわかりました。
そんななごやんを博多弁を話す花ちゃんは
―なごやんはどこまでも東京オタクだ。東京人になりたくて、富士山を信仰しているのだ。英文科にはよくペラペラ喋れて原語で何でも読めてアメリカ人になったつもりのバカがいるけれど。
と、ばっさり切り捨てちゃったりするのですが、この辺りのばっさり感や描き方が、絲山さんは抜群にうまいなぁ・・・と思いました。絲山節、と言ってもいいかもしれません。前述した文章を読んだ時には「くふふ」と思わず笑ってしまいました。この名古屋や九州に関しては、絲山さんがきっと会社員時代の赴任で実際にその土地を体験して感じ取ったことが生かされて、こういう形で小説に結実しているんだろうなぁ・・・とも思いました。
花ちゃんの話す博多弁がとてもテンポが良くて小気味良くて、この小説全体にリズムを持たせています。設定からすれば濃く暗くなってもおかしくないはずなのに、とても軽妙なユーモアがある感じ。そして小説としてはそんなにボリュームもないのでさらさらさらっと読めてしまいます。
こういう題材をこういう風に描ける絲山さんは、やはり"書ける"人なんでしょうね。私の好みではこれよりも『海の仙人』の方が好きでしたが。
by bongsenxanh | 2005-12-18 01:55 | | Comments(2)
Commented by ともきち at 2005-12-21 17:57 x
これね、名古屋の人が読んだらどう思うかを知りたかったの。
読んでみてああーと思った。
別にむっとはしないのね?(笑)

やっぱり植木等の影響が大きいのよ。
昔の番組だから知らないかもしれないけれど、名古屋の結婚物語みたいのでみゃあみゃあいってたもの(爆)
私の友人が名古屋なんだけど、関西圏だけど関西そのものじゃありませんっ大阪とも違いますって力説していたもの。

なごやんはね、あのあとスーパーで特売になったから知っているわ(笑)
あーこれね、なごやんと思ってみていたわ。食べはしなかったけど。まさかこの小説の影響で並んだとも思わなかったけど。

この二人の掛け合いがいい味を出している作品だよね。
Commented by bongsenxanh at 2005-12-22 02:54
むっとはしないですよー(笑)
私の友人でも「大きな声では言えないけど、名古屋って好きじゃない」って言う人が多かったり。
絲山さん、名古屋出身でもないのにどうして名古屋人のこの屈折した郷里への思いがわかっちゃうのかしら?と思いました。
なごやんって名古屋を否定しつつ、でも実は愛着を持っていますよね?
味噌カツは最高だとか言ってみたり(笑)
あの辺りがうまいなぁと思ったんです。
でも生粋の名古屋市内生まれ育ちの人はもしかしたらむっとするのかも?
うちは母が土地の人じゃないし、親戚もほとんど関東方面なので、ちょっとこの土地に対する愛着が希薄かもしれないです。

この二人の掛け合いをばりばり喋る花ちゃんの博多弁となごやんの少しおっとりした標準語にしたところが良かったですよね。
絲山さんはそういう言葉の力とか妙をわかっている人なんだなぁ、と。
で。今、手元にニートがあるのですが。
読もうか、このまま図書館へ返してしまおうか考え中です・・・。


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