ということで、迷いに迷って結局は二日連続して観ることになりました、この作品。
今日は幕開けを見逃すなんてことのないように、早めに移動して、余裕で劇場へ入りました。席は昨日とはまったく逆サイドの一番右端の席です。昨日は一番左端の席だったのです。列としては昨日とほぼ同じ、前から12列目辺り。このVivian Beaumont Theaterは古代ローマの野外劇場と同じ様に、すり鉢型の円形劇場になっています。そのため客席から舞台が近いですし、観やすさも抜群。但し、円形になっているため、端席になってしまうとどうしても舞台奥は見切れてしまうのでそれだけが難点です。そしてこの作品、今回はTKTSでチケットを取ったために二日とも端席になってしまいましたが、正規料金の100ドルを払ってもまったく惜しくないと思います。私は正規料金を払ってでもセンターの3、4列目くらいで観たい!と思いました。次にもし3月辺りに行けるとしたら、確実に良席を押さえて行くでしょう(本当に行っちゃいそうな自分が怖い・・・)。 最近では開演前にどこの劇場でも開演中の注意事項(携帯の電源を切ってください、とか写真撮影はご遠慮ください、とか)のアナウンスが流れるのですが(B'wayも演劇好きよりいちげんさんの観光客が増えたこともあって、マナーは以前よりも悪くなっているのです、残念ながら)そのアナウンスをこの作品では主演女優がイタリア語で流していて、それがユーモアに溢れていて、この作品の雰囲気にも合っていて良かったです。ちらほら、イタリア語のわかるお客さんもいらっしゃる様で、笑いが漏れていました。私もイタリア語はわからないのですが、ところどころの「セレフォネ」とかいう単語で、何を言っているかはだいたい想像がつくのです。 さぁ、幕が開きます・・・。 幕開き、まずMargaretとClara母娘がイタリアのフィレンツェへ来たシーンの二人のデュエットから始まります。あぁ・・・やっぱり美しい。それに幕開きに二人のデュエットによって、この作品の時代や場所の設定を説明してしまうところは舞台運びがうまいですね。狂言回し役はいないのに、主役二人がその代役を務めてしまうのです。 この日のMargaret役はいつもこの役を演じているVictoria Clarkではなく、いつもはFabrizioの母親役を演じているPatti Cohenourが務めていましたが、彼女も美しい歌声でMargaret役としては十分でした。確か、夏頃にも期間限定でMargaretを1ヶ月くらい演じていたことがあったはずです。Pattiはとてもわかりやすい演技をする感じで、台詞もとてもクリアに話すので、英語のHearingが苦手な私としては助かりました(笑)Victoriaの方が上品で陰りのあるMargaretという感じかな。 幕開き後、広場でClaraとFabrizioが出会うシーンです。風に飛ばされたClaraの帽子をFabrizioがキャッチして手渡すのですが・・・ありがちながらもロマンティックなシーン。この作品、昨今のB'way作品に比べれば本当にシンプルで、派手な舞台装置はひとつもないし、あっと驚くような奇抜な舞台転換などもないのだけれど、でもとても美しくまとまっていると思います。建物や柱に見立てたセットもうまく使い回しています。照明も、広場にさす溢れる光―――イタリアの太陽の光を表現していて、雰囲気を出すことに成功しています。そんな中を、カップルが自転車に乗ってちりんちり~ん、と走り抜けて行く間にささっと舞台転換をしたり。とてもスマートで巧く作られています。本当に、シンプルなのですが。そういったところも、二回目の観劇な分だけ、冷静に観られました。やはり回数観ると、それまでに気づかなかった発見があるんですよね。 続いて一番楽しみにしていたFabrizioのソロ!!"Il Mondo Era Vuoto"です。あぁ・・・やっぱり素晴らしい。なんて素敵な声をしているんだろう。情熱的なテノールで、でもコッテリはしていなくて、爽やかに突き抜けていて、高らか。少し、色気もある。どこか遠い天上の、高みにまで連れて行ってくれるような。でも・・・Aaron、昨日のマチネの方がもっと声が出ていたよー、なんてちらっと思ってしまいました。やはり一週間最後の公演になるとさすがに喉に疲れが出てくるのでしょうか。とは言っても素晴らしい歌唱でしたが。 そして、ClaraのKelli O'Hara。この人、どうしてこんなにも透明感のある役作りが出来るのでしょう。歌声も透き通ったソプラノで素晴らしいのですが、役作りもまた良いのです。Claraって、内面に瑕のある、情緒障害を抱えた女性の役なのですが、それがKelliを観ていると、わかるのです、すぐに。ものすごく無邪気に足音を立てて、トタトタトタ・・・と歩く様子や、Fabrizioに「君の肌は・・・ミルクのようだ!(白いってことです)」って褒められてきゃぁきゃぁ言いながら足をばたばた踏み鳴らすところや、そういったひとつひとつの動きにニュアンスをこめるのがとてもうまいのです。そして、愛くるしい。実年齢よりも中身がかなり幼い、という人物設定をとてもリアルに演じていました。自分からFabrizioに「Will you marry me?」ってあっけらかん、と言ってしまうところなんかも、嫌味にならずに本当にかわいらしくあどけなく演じていました。更に「でも・・・結婚するには決意する時間が・・・」とか言いよどむFabrizioに対して「Decide,Decide・・・!!」って笑いながらささやく様に命令しちゃうところなんて、無邪気で罪のない感じがなんとも言えませんでした。Claraがその年相応の成長をしていないのだということを観客に納得させるには十分な演技だったと思います。この時は知らなかったのですが、私が観た翌週限りでKelliはこの役を降りてしまいました。次なる作品『Pajama Game』に出演するため。ぎりぎり滑り込みで彼女のClaraを観ることが出来て幸せでした。 そしてそして、やはり1幕ラストのFabrizioとClaraのデュエット"Say It Somehow"は最高でした。Fabrizioとの夜の公園での待ち合わせに失敗したClaraがパニック障害を起こして、Margaretにホテルへ連れ帰られ、ベッドへ寝かしつけられたところへ、待ち合わせ場所に来なかったことを心配したFabrizioが訪ねて来るのですが、そのFabrizioをClaraはとっても無邪気に部屋へ招き入れるのです。ベッドをぽんぽん、とたたいて「ここへ座って」と。そこから二人のデュエットが始まります。・・・もうこの日のデュエットは昨日以上に美しくて美しくて。胸にぐぐぐぐっと迫ってくるものがあって、気がついたら、目から涙が溢れていました、はらはらと。切ないとか悲しいとか、そういう次元を超えて、ただもう"美しい"というそのことだけに心が共鳴して、一緒に動いて、涙になってしまった、そんな感じでした。このデュエット、途中までは歌詞があるのですが、そこから先は「Ah~」というコーラスだけでのデュエットになります。この母音だけのコーラスが、歌詞がない分、旋律の美しさを際立たせて、ClaraとFabrizioの純粋な気持ちの高まりとシンクロして、こちらにもそれが自分自身の心の高まりであるかのように伝わってきて、凄まじいくらいでした。体中で、それを感じました。その旋律の揺れと高まりにあわせて、ClaraがFabrizioの胸に額をつけて、それから少しづつFabrizioのシャツのボタンを外して脱がせていき、キスをして抱き合って・・・という風に舞台は進行していくのですが、それが全然いやらしさがなくて、むしろ神聖な感じさえするくらいでした。このシーンの、二人の気持ちも音楽も一番高まってきた頂点くらいの、まさにその瞬間にホテルの廊下を歩いて来たMargaretが二人がいる部屋のドアをバタン!と開けるところで1幕の幕が下りるのです。私が一回目に観た時の感想を書いた中で「怖い」と書いたのは、この幕切れのことです。若い恋人同士が今まさに・・・っていうところで母親が扉を開けるなんて・・・こんな恐ろしいことって・・・・・・。でもこれがとっても効果的で、恐ろしくも美しい幕切れなのでした。音楽と相まって、いい演出だったと思います。 2幕は・・・あまりAaronの見せ場がないのですが(そういうことなのか、要は?)Claraが歌うタイトル曲"The Light in the Piazza"が切なくて美しいです。そして、不幸な結婚生活を送ってきたMargaret自身の苦悩も描かれたり。そこから先はこれから観る方のお楽しみのためにとっておきます。 ここまで書いてきて・・・私は何度「美しい」という言葉を使ったでしょう。それ以外に形容する言葉が見つからないのです。私の語彙不足もありますが、それだけこの作品は「美しさ」に彩られた作品だということでもあります。 チャンスのある方はぜひ。残念なことに、この日のマチネでは、2階席の左右ブロックにかなりの空席が目立ちました。が、つい先頃、めでたく7月2日までの延長が決まりました!これでこの作品が延長されるのは3回目です。それだけ、リピートして観に行くお客さんがいる、ということでしょうか。嬉しい限りです。もちろん、私もそのひとり。 Sun Matinee 27Nov.2005 Vivian Beaumont Theater
by bongsenxanh
| 2005-12-26 04:49
| 観劇レビュ NY '04/'05
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