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『砂漠』 伊坂 幸太郎 著、実業之日本社
砂漠
伊坂 幸太郎
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いやはや・・・。伊坂さん、絶好調という感じですね。まさに今が旬の作家さんということなんだろうなぁ・・・と、強く思わされた一冊です。帯に"青春小説の新たな傑作"という謳い文句があって、読み始めたばかりの時点では「青春小説っていうのとはちょっと違うでしょ」と思ったのですが、くわ―――っ!と読み進んで、読み終わってはっと気づくと、確かにこれは青春小説なのでした。もちろん、伊坂味の。
仙台の国立大学で出会った5人の大学生。何事にもあまり熱くならない、どこかしれっとしていて、俯瞰目線で物事を見ている北村(男)の一人称で語られます。その北村を取り巻く、信念を持っていて弁舌を振るうのだけれど、でもどうもピントのずれている西嶋(男)、現代の若者の代表格のような、お調子者のようだけれど憎めない鳥井(男)、クールビューティの東堂(女)、穏やかな陽だまりのようでいて人とは違う力を持っている南(女)。この5人が集まって麻雀をするようになったところから話は展開していきます。このお話の面白さ、とてもじゃないけれど私には説明できませんのでぜひぜひ手に取って読んでみてください。なんてことない(?)大学生の大学生活を描いているようなのですが、もう絶妙な面白さなのです。



最もキャラクターが濃いのは西嶋くんです。戦争を始めるアメリカとアメリカ大統領に憤り、でも何も出来ない自分の無力さを知りつつ弁舌を振るい、そして「何かすべきだ!」と言いつつ彼が何をするかと言うと麻雀なのです(笑) 自分が麻雀で「平和(ピンフ)」で上がれば、それを積み重ねれば世界はいつか平和になる・・・なんて、馬鹿馬鹿しいような理論を唱えてひたすら麻雀をうつのです。可笑しいですよね。彼の行動はその他にもこんなことばかりなのですが。そして彼はそれを悪びれたり恥ずかしがったりしないで、いつも実に堂々としているのです。その辺りがナンセンスに感じられつつも、なんだか魅力があるのです。私は読みながらこの西嶋くんにとある人物をあてはめて場面を思い描いていました。誰かと言えば、芸人のドランクドラゴンの塚地くん(太っていてほっぺがピカピカしている方)です。なんだか妙~に塚地くんがはまったのです、私の頭の中で。容貌や口調や態度がどうにも塚地くんっぽいのです、西嶋くんは。(と言いつつ、私に一番近いキャラクターなのがこの西嶋くんかもしれません)
他の4人もそれぞれとっても魅力的で、私は鳥井くんも北村くんも東堂さんも南ちゃんも大好きでした。ぎゃはは、と笑う鳥井くんもいいし、完璧な美人で表情を出さないながらも人間的な東堂さんも好きだし、ほんわりした南ちゃんもなんとも言えず。あ、そして伊坂さんの作品にはやはり犬がつきもの。今回はシェパードが出てきます。このシェパードも良いです。この登場人物でまた本を書いてほしいなぁ。伊坂さんの本はこの本に限らず登場人物がとても魅力的で、その後のこの人たちをまた読みたいなぁと思わせるものが多いですね。『陽気なギャング~』しかり、『チルドレン』しかり。
一箇所、ドキッとしたところがありました。北村くんには鋭く的を得たことを言う彼女の鳩麦さんという人がいるのですが、彼女が言うのです。
頭の良い人の陥りやすい罠ってあると思うんだけど。賢くて、偉そうな人に限って、物事を要約したがるんだよ。(中略)たとえば、映画を観ても、この映画のテーマは煮干しである、とかね、何でも要約しちゃうの。みんな一緒くたにして、本質を見抜こうとしちゃうわけ。実際は本質なんてさ、みんなばらばらで、ケースバイケースだと思うのに、要約して、分類したがる。そうすると自分の賢いことをアピールできるから、かも。
あぁ、もしかしたら私もその罠に陥りがちな人間の一人かも・・・と、身につまされました(あの、自分が頭が良いと思っているわけではなくてね、でも何でも要約する傾向はあるかもなぁ・・・と)。
それにしても伊坂さんは"この今の時代"の空気を掬い取るのが本当に上手いですね。そして上手いだけじゃなくて、確実に面白いところが凄いです。いやはや・・・。
唯一気に入らなかったのは、この装丁・・・。すみません、私の好みではありませんでした。この装丁で、著者が例えば伊坂さんではなくて別の誰かだったら、たぶん手に取らない本になっていたと思います。インパクトは強いのですけどね。
それとですね、麻雀の知識を持っていれば、きっともっとこの本を楽しめたはずなのに・・・と、そこが少し悔しく。私はまったく麻雀を知らない人間なので。始めの方の北村くん同様に「役って何?」と訊いて、鳥井くんから「そこからかよー」と、ぎゃははと笑われるに違いありません。
by bongsenxanh | 2006-05-12 01:44 | | Comments(2)
Commented by みちよ at 2006-05-12 22:10 x
連投だ。
ほんとコレ秀逸だよ~!もう寝る間を惜しんで読んだもの!
キャラが全員いいんだよね。
伊坂風の台詞まわしもよいし。近いうちにこれ絶対映画になるね。
そういう雰囲気を持った作品だったもの。
西嶋くん、わたしも好き。今いろんなものに流されやすい若者がいるなか、
この人だけは自分というものを失わずに、流行物に流されずにいるような気がするよね。
そして東堂さんとのエピソードもたまらなく好き。
そんなに風体が格好よくもない西嶋のことを思い続ける東堂さんを、
ものすごくものすごく愛しく感じた。
大きな事件はなにもないのに、読ませるよねぇ。ほんとうに。
伊坂さんと結婚したい、わたし(笑)
Commented by bongsenxanh at 2006-05-13 01:14
ありがとうございます~♪>連投だ。
最後の一文で笑いましたわ。
私もちらっと「まずはお友達からおつきあいを・・・」とは思いましたが、みちよさんはいきなり「結婚」なのね(笑)
そうそう、私もそのうち映画化するんじゃないかな~と思いました。
登場人物みんながこれだけ魅力的なんだもの、映画としても大きな魅力だし、俳優の売出しにも使えますよね(うがった見方?)。
もう既に水面下ではそういう話が進んでいるかもしれませんねー。
何人ものプロデューサーや監督が原作の争奪戦をしているんじゃないかしら。
東堂さんも愛しいし、南ちゃんも大好きなんですよ、私。鳩麦さんも素敵だし。
女の子の中で長谷川さんだけ最後までいいとこナシでちょっとかわいそうだったなぁ・・・なんて。
伊坂さんて大学生の時、どのタイプだったんでしょうね?やっぱり北村くんに近かったのかしら?
でもって伊坂さんの彼女って鳩麦さんみたいな人だったのかしら?
とか、そんなことをあれこれ想像してみるのも楽しかったです(笑)


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