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『中庭の出来事』 恩田 陸 著、新潮社
中庭の出来事

読みました。出来るだけ自分が読むまでは情報とか人の感想とか、入れないようにして読んだのですが、やはりちょっぴり入ってしまったのが少し悔しく...。でもこの作品は謎解きよりもむしろその過程にこそ味わいがあって、そこを楽しむ作品かな、と思いました。
あらすじは―――タイトルの通り『中庭の出来事』です。いえ、ふざけているわけではなく、本当に。中庭で起こるある事件。その事件を仕掛けたのはいったい誰か。



この作品ですね、その中庭で起こるある事件というのが、入れ子構造になっている仕組みなんですね。私は勝手にマトリョーシカ小説と名づけました。このマトちゃん、中庭で起こる事件が現実のことだと思って読み始めると、それは実は舞台で演じられるための脚本に書かれている事件で、それを演じている女優がいて...と思っていると更にそれも脚本に描かれたこと(つまり"女優"役を演じている"女優"がいる)だとわかり、更に...という風にどんどんどんどん世界が入れ子になって拡大(いや、収縮?)していくのです。あ、お化粧台の三面鏡にも似ているかも。鏡の中を覗き込んでいると、どんどんその奥のそのまた奥の、更にその奥が見えてくる...という。凝っています。凝りに凝っています。マトちゃん、いったいどこまで次が出て来るんだ...という感じで。その凝り様を楽しめる人には楽しめるのではないかと思います。私は...まぁまぁ楽しんだかな。最初の滑り出しから中盤くらいまではそれがとっても楽しかったのです。でも、残り3分の2くらいになった頃からちょっと嫌な予感がしてきて。・・・恩田さん、これ、またもやうやむやのぐだぐだにして終わらせるつもりじゃないでしょうね?と。一種の不条理小説で、読み手にどかーん!ずがーん!!というカタルシスを与えないままに終わらせるのではないかと。その予感は見事に的中しました。本当にぐだぐだで終わってしまいました(^^;) まぁ、いつもの恩田さんと言えば恩田さんなのですが。もう少しどきっとするような、スカーッ!!とカタルシスが得られるような終わりがほしかったです。いくら過程を楽しむ小説だとは言え。恩田さんなりの意欲作だったのだろうな...試金石みたいな作品だったのだろうな...とは思いましたが。着地点がうまく定まらなかったのでしょうか。
あとですね、これ、普段お芝居をよく観ている方には、割とわかりやすいのではないかと思います。脚本形式の書き方が続くところがあるのもそうですし、こういうマトリョーシカタイプのお芝居っていうのも多いですよね、小劇団系では特に。あと、『藪の中』みたいに、ひとつの事件について複数の人間が別々の角度から証言をしていくというタイプのお芝居も多いですし。そういったものを見慣れている方には、比較的とっつきやすいのではないかなーという気がしました。容易にその場面場面を自分の中で映像化することが出来るので。
ところで、この中で出てくる若手女優って、明らかに松たか子さんを意識していますよね?『チョコレートコスモス』の時にもそう思ったけれど。恩田さんって彼女がお気に入りなのでしょうか。じゃ、あの大女優は誰なのかしら?中堅女優って誰なのかしら?と、いろんな人を想像してみるのも楽しかったです。
by bongsenxanh | 2007-02-24 00:57 | | Comments(0)


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