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『木洩れ日に泳ぐ魚』 恩田 陸 著、中央公論新社
木洩れ日に泳ぐ魚
木洩れ日に泳ぐ魚


読了。面白かった。面白かったけれど、途中からややダレた(展開が?読んでいた私が?)。

男と女がいる。荷物がすべて運び出されて空っぽになったアパートの一室に。明日は引越しで、男と女はそれぞれ別の場所に出て行くことになっている。最後の一夜。男と女はワインと惣菜を買って来て、女のスーツケースをテーブル代わりにして最後の晩餐を開く。それぞれ心中に思うところがある。それぞれがそれぞれに対して問い質したい疑念を持っているのだ。そして、晩餐は始まり、徐々にその"出来事"について...あるいは過去について...語られていく。

以下、うっすらネタバレ入りますので、未読の方はご注意ください。



面白かった!面白かったのだ、本当に。ただ、夜中に読んでいて「おおぉっ!」という盛り上がりが来た辺りで睡魔に襲われたので、一旦睡眠を取った。で、朝目を覚ましてから続きを読んだら、どうも今ひとつ、夜に読んでいた時のような盛り上がりを感じられなかったのだ。これは、展開のせいではなくて、私の読み方のせいだったのかもしれない。夜中に一気に読んでおくべきだったか?私のばか。
ともあれ。引き込まれた。ぐいぐいぐいぐい。さすがは恩田さん。空っぽのアパートの一室、というシチュエーションと言い、登場人物は男と女の二人だけ(二人の会話の中で他の登場人物が出て来るにせよ)というところと言い、小説としての持ち札は極めて限定される。にも関わらず、この二人の会話だけで展開させていって読ませるところが恩田さんの凄さだと思う。これ、二人芝居で舞台がやれる。ただし、演技力がある役者さんでなければいけないけれど。男と女の一人称で物語が語られて、各章ごとに語り手が交代する。そこで、語られる視点もがらりと代わる。お互いの主観・疑念・推理etc.がそっくり入れ替わるわけで、そこも面白さのひとつ。
読んでいる内に、ある男の死が浮かび上がってくるのと、この男と女がどういう関係なのかというところも明らかになってくる。男の死が事故なのか、他殺なのか、他殺だとしたら誰が手を汚したのか。そしてこの男と女の真実の関係は何なのか。そして男と女、どちらの記憶が正しいのか。こういうものがぐるぐる回って、面白い。
が。ミステリとして読むとどうなんだろう?恩田作品の詰めの甘さと言うか、最後が雪崩になるという特徴はいろんな作品で指摘されているところだけれど、私はこの作品で特に、そこが気になった。男と女の記憶と推理以上のものは出てこないのだ。男の死の状況にしても、二人の関係及び過去にしても。つまり、事実としての裏づけが何もないままに話が進んで終わっていく。あくまでも"想像の域"を出ない話。そういうことを言い出すとおそらくこの作品は楽しめないのだろうが、私はその"客観的事実に基づく証拠がない"ところが引っかかった。
女が「障害がない」ということがわかった瞬間、「男をそれほど愛していない」ことに気づく、というところは妙に説得力があって、うんうん、とうなづいた。
それにしても恩田さんは"禁断の愛"の設定がつくづくお好きだな、とも思った。
by bongsenxanh | 2007-08-12 00:21 | | Comments(0)


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