これは海の向こうで公開が始まった時から、日本で公開されたら必ず観なければ...と思っていた1本で。なんとか公開が終わってしまう前に観に行けました。
が。 最初に物申してもよろしいでしょうか?! 『愛を読むひと』 この邦題はいったい何なんですか~?! 映画配給会社の方はもうとにかく何でもかんでも「愛」さえタイトルにつけときゃそれでOK! 「愛」の字さえ入っていればそれで集客が見込めます!とでも思っているのではないでしょうか。 安っぽいと言うか、ちゃちいと言うか、個人的にはこの邦題、いただけません。 日本で出版された時の『朗読者』は素っ気ないようだけれど、名訳だったと思います。 この原作、私はサイゴンに住んでいた時に読みました。 あちらにいた知り合いの駐在員のご夫人(本好きな方)に貸して頂いた覚えがあります。 なぜ覚えているかと言うと、海外に住んでいると何に飢えるって、日本食もそうなのですが、まず活字に飢えるのです。 とにかくどんなものでもいいから日本語で書かれた本を読みたい!と。 で、飢えているがゆえに、それこそ一滴の水を惜しむかのように大切に丁寧にじっくり読むのです、活字を。本を。 日本にいて日本語の情報が溢れている時とは比べものにならないくらいに。 そんな風にして読んだ一冊だからこそ、その内容とその時の自分の感想はしっかり脳に焼きついていて。 この本、確か新潮クレスト・ブックスが鳴り物入りで(?)創刊されて、その時に発行されて話題をさらった1冊だったように記憶しています。 書評や帯では「戦後ドイツで誰かが書かなければならない物語だった」「衝撃の問題作」というようなことが謳われていたのですが、私自身はと言えば、よく書かれた物語だとは思ったけれど、それほど感銘を受けることもなく、そして少し共感できない部分も含まれていたりもして。 ともあれ、その記憶に残る1冊の、映画化。 ケイト・ウィンスレットがオスカーをダブル受賞したことでも話題になった本作。 以下、ネタバレのようなものがあります。また、とても個人的な感想でもあります。 いつものことながら、これからご覧になるという方、情報を入れたくない方はご注意ください。 はい、まず原作はこちら。 詳細を覚えていないのですが、これってドイツ語→日本語訳だったのかしら。 それともドイツ語→英語→日本語の二次訳だったのかしら。 それによってかなり作品の風合いも違ってくると思います。 ま、その話は今は置いておくとして。 あらすじは―――端折っていいですか? それとも書きます? 第二次大戦後ドイツで15歳の少年が21歳年上の女性と偶然出会い、恋に落ちる。 女性は少年にベッドに入る際に本を読んでくれとせがむ。 二人の間に流れる濃密な時間。 けれど理由もわからないままある日突然少年は捨てられる(女性が姿を消す)。 その後、法学生となった少年がナチス戦犯を裁く法廷で目にしたのは、被告として裁かれている女性の姿だった。 映画は、全体としてとてもよく仕上がっていたと思うのだけれど。 で、世界に出す作品としては仕方のないことなのだろうと思うけれど。 全編、英語で話されるのはなんだかなぁ...と思いました。 米独合作なのだったら、その辺がんばってドイツ語で、とかは無理だったのかしら。 それだとやはり米英公開時にハンディキャップになってしまうのかしら。 特にね、それがもったいなく思われたのは、少年(デヴィッド・クロス、好演!)が朗読するシーンや、物語後半で大人になった少年(レイフ・ファインズ)が自分の朗読をテープに吹き込むシーン。 とてもとてもいいシーンだったのに、耳に届いてくるのがすべて英語...というのがとても違和感があってそして惜しまれました。 言語って、その言語にしかない響きというのがありますよね。 ドイツ語ももちろんそうで。 ドイツ語にしかない独特の響きと美しさ、そして力強さがある。 例えばベートーヴェンの第9(合唱付き)なんかはドイツ語で歌われるからこそ、あの感動があるのであって。 またはドイツ歌曲はドイツ語だからこそ美しく、切ない情緒があるのであって。 ワーグナーの英雄ものオペラは(ワ―グナー、好きじゃないけど)、ドイツ語だからドイツ・オペラの荘厳さが醸し出されるのであって。 今回のこの映画の朗読シーンも、ドイツ語で滔々と読まれたら、それは素晴らしい響きを持って観客の、あるいは朗読を聴く女性ハンナの耳に届いたのではないかと思うのです。 はい。 とても。 残念でした。 だって、シャンソンはフランス語で聴きたいでしょ? カンツォーネはイタリア語で聴きたいでしょ? 長唄とか謡は日本語で聴きたいでしょ? これ以上言ってもしつこいので、やめます(笑) でも主人公の少年がミヒャエルじゃなくてマイケルなのも変だった。ドイツ人でしょう? ケイト・ウィンスレットは安定して演じていました。 あぁ、彼女の役だな、と。 でも後で知りましたが、当初はこの役、ケイトのスケジュールと合わなくて(『Revolutionary Road』を撮っていたから)二コル・キッドマンが演じていたんですね。 二コルが妊娠で降板したので、結局はケイトが演じることになったと。 でも、ケイトで正解だったと思います。 ケイトは、まぁ以前からそうでしたが、見事な脱ぎっぷりで。 中年体型になって垂れた胸やお尻をよくあれだけあられもなく衆目に晒せるなぁ、と。 その女優魂と言うか、女優根性と言うか、に感心致しました。天晴れ、ケイト! 同時に、ハンナという女性の内面もしっかり演じ切っていたと思います。 労働者階級の無骨な感じと、自分の弱点を見せまいと虚勢を張るあまりの気の強さ。 でも『オデュッセイア』の朗読を聞いて子供のように涙するかわいらしさもあって。 ただ、年老いてからの演技は、物足りなかったです。 特殊メイクでお婆さんに見せているのに、台詞を話す声やしぐさなどはまだまだ現役の女!という感じの若々しいもので、それが見た目との間に激しくギャップがありました。 "老け"に徹し切れなかったのかしら。 前述しましたが、少年期のミヒャエルを演じた新人、デヴィッド・クロスはとても良かったです。 決してものすごいハンサムくん、というのではないけれど、目から発せられる感情の動きとか、表情などが非常に雄弁で。 頼りなげなのだけれど、でもその中にやんちゃさとか、負けん気の強さみたいなものがあって。 彼が好演していただけに、その後の大人になったミヒャエルがレイフ・ファインズというのは、うーん...悪くはないのだけれど。レイフもいい演技だったのだけれど。 少年ミヒャエルと中年ミヒャエルが私の中ではうまくつながりませんでした。 レイフ・ファインズって『ナイロビの蜂』の時もそうだったけれど、どうもおどおどしているヘタレな中年男、という印象があって。 もちろん、彼自身がそうだということではなくて、そういう役作りをしているのでしょうけれど。 ミヒャエルってそういう役かな?と少し思ったりもしました。 『ヒトラー 最後の12日間』、『僕のピアノ・コンチェルト』のブルーノ・ガンツも出演していましたが。 彼の演じた役もとても曖昧なまま終わってしまっていたような...。 あれ以上は物語の流れとして強いことは言えないでしょうけれど。 この役者さんを使ったわりにはちょっともったいない使い方だったようにも思えました。 あ、音楽がとても良かったです。 ピアノを基調とした、抑制のきいた、地味なのだけれどきちんと作品世界を物語る音楽で。 ニコ・ムーリーが作曲。 ニコ自身がピアニストということもあって、ピアノの使い方が良かったです。 これって、ある意味、ドイツという国の、あるいはドイツ国民の意識だったり倫理だったりが問われる作品なのですよね。 ま、そこまで堅い命題でなくとも、でも何かしら"戦後ドイツ"のアイデンティティみたいなものが問われているのは確かで。 そういう点において、やはりもっと"ドイツ映画"であることを主張しても良かったように思います。 最初の話題に戻るようですが、ドイツ語で語られても良かったのではないか、と。 そういうのを取っ払ったところで、自分の愛した人が背負っている罪と秘密に人はどれだけ向き合えるのか、あるいはそこを越えてもっと高みへと行けるのか、というところは、ひたひたと、描かれていたように思います。
by bongsenxanh
| 2009-07-02 00:21
| 映画
|
Comments(8)
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ともきち
at 2009-07-02 18:24
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まさに私、これを今日見てきたところ。
ちょっと自分の感想書いてから、またきます、と予告編。
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bongsenxanh at 2009-07-03 01:43
♪ともきちさん
ふふ、予告編をお読みしてからお越しをお待ちしておりましたが^^ そしてそしてともきちさんの感想を読ませていただきました! あー、こういう風に静かに肯定の印象から入る感想っていいなぁ...と思いました。 と言うか、ついネガティヴだったり批判めいたところからだったり入ってしまう自分の感想を穴に入りたくなるほど恥ずかしく思いましたー。ひゃぁーーー。 デヴィッド・クロスくんもケイトも本当に良かったですよね。 デヴィッドはそうそう、ともきちさんが書かれていたようにエロスがあって。 ただの純朴な爽やか少年なんかではなくて。 彼が母語で話すところ、朗読するところ、聴いてみたかったなーという気持ちがやはり強く...(笑) 映像もきれいでしたよね。チェコとかドイツとか数ヶ国にまたがってロケしていたんですね。
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ともきち
at 2009-07-03 18:28
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昨日は疲れて動物のように寝てしまって。
今日は病院ともろもろ忙しかったので、遅くなってごめんなさいね。 トニー賞もお蔭様で撮れましたが、まだ見ることが出来ません・・・ ・・・・・ 読んでくださってありがとう。 最初が肯定なのは卑怯者だからかもしれません(笑)
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ともきち(続き)
at 2009-07-03 18:28
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(以下ネタバレです)
あ、でもね、すごく良かったの。 それで、ドイツの話ですが、私も最初ややそれは思いました。 これってケイトのやったことというのが、収容所の看守さんでしょ。それでドイツというかヨーロッパの話だから、本当はヨーロピアンが確かにベストなのよね。 ただ、途中で私はそれは消えたの。 まあいいかって(適当ぶりぶり) 英語と言うことでこれが広がって、見る人が多くなった方がいいのかなあと(単純ぶりぶり) あとケイトが私は好きだから、余計にそう思ったのかも。ドイツでこれだけの女性がいるのかというのはわからないんだけど。 なんかね、本が一人称でしょ。それで本人がぐりぐりぐりぐり、ハンナはどうしたかどう思っていたか、っていうのを考えまくっているでしょ。 そういうのが全ては盛り込めないので、あとはデヴィッド君の表情にかかっていると思ったんだわ。その点でとても良く出来ていたと思う、彼は^^
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aya
at 2009-07-04 00:31
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bongsenxanh at 2009-07-04 12:42
♪ともきちさん
再度コメントくださってありがとうございますー! ご多忙でお疲れの中、本当にどうもありがとう(ぺこり) ケイト、私も好きなんですよー。 彼女の作品は結構観ている気がします。出演作が多いということもありますが。 彼女の出演作って"当たり"が多いんです(個人的な好みとして)。 『いつか晴れた日に』とか『ネバーランド』とかとっても良かったです。 確かに今回、英語だから観客もマーケットも広がったということはありますよね。 これがもしallドイツ・キャスト、allドイツ語で撮られたりしたら、世界で観られたかは疑問ですものね。アカデミー賞だってアメリカ映画のための賞ですし(allドイツだったら外国映画部門の対象になるのでしょうね)
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bongsenxanh at 2009-07-04 12:42
(つづきです)
そして、そうそう!本だと一人称なんですよね。ミヒャエルの視点から語られて。 で、ハンナが字が読めないというのがわかる瞬間、というのがとても巧みに書かれていて。 ミヒャエルの書き置きが読めなかった、というシーンがありましたよね、原作では。 私、あそこのシーンとかはきゅぅーーーと胸が絞られるような痛みとか切なさがあって、ああいうのはやはり映画では描き切れない部分だなぁと思いました。 そういったところを、デヴィッドは演技できちんと出していましたよね^^ あと、これはまったく関係ないことですが、彼、すごく腰の位置が高くて足が長くありませんでした? 体のつくりが我々モンゴロイドとはまったく違う~!とため息が出ました(笑)
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bongsenxanh at 2009-07-04 12:46
♪ayaさん
ははは。 ayaさん、きっとお疲れなんですよ(笑) あと、映画館の場内のあの暗さって、心地よく眠りに誘う暗さだと思います。 最初の方で、割とmake loveなシーンが続くではありませんか。 あの辺り、眠り姫には少拒絶反応が出るのかもしれませんね^^ DVDが出てからご自宅でまったり観てみるのも手かもしれません。
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by bongsenxanh
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