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ファントムについて考えている
今月初旬に佐野ファントムを観てきて、やや物足りない観劇後感だったので、家へ帰って来てから昔のファントムの音源を引っ張り出して来て、ずっとそれを聴いている。



私が繰り返し聴いているのは、祐一郎ファントムのもの。
'91年当時、ちょっとだけ伝手があって、関係者の方からいただいたものだ。
(ですので、「その音源分けて」という方がいらっしゃってもご要望には添えませんので悪しからず)

祐一郎さんのファントムは、やはり美声で。聴かせるファントムで。
そして今聴くと、本当に若い。
確かこの時、祐一郎さんはまだ35歳だったのだ。
その当時、私もまだまだお子ちゃまだったので、その"若さ"に気付かずに、ファントムとはこういうものだと思い込んで、ただうっとりと聴き惚れていたのだけれど。
でも今にして思うと、ファントムは30代で若々しく演じる役ではないとわかる。
これは、せめて40代に乗ってから、あるいは50に手が届くかという年になってようやく演じられる役なのだということがわかるほどには、観劇経験を積んだ。
そして、祐一郎さんのファントムは、若さに加えて自信に満ち溢れていた。傲慢とも思えるほどに。
見た目も、あのファントムメイクをしながらもなお、非常に美しいファントムだった。
その美しさは、今でも記憶に鮮明だ。
つまり、ファントムとしては、規格外と言うか、若干"役には忠実ではない"、"あるまじき"ファントムだったということになると思う。
ファントムは、醜く、劣等感に苛まされ、愛されないことに苦しみ、そして悲しみを湛えていなければならない。
クリスティーヌを恋い求め、自分とは対照的に若く美しく育ちの良いライバルであるラウルへの嫉妬に身を焦がし、みっともなくあがいて、挙げ句、望み叶わず闇に消えていかなければならない。
そういった部分において、祐一郎さんはまったくファントムではなかったと言えると思う。
あんなに美しくて自信に満ち溢れていて、誰も彼もが自分を愛していると信じて疑わないような「俺様最高!」ファントムは、あり得ない。
もちろん私は、そんな祐一郎ファントムに惹かれ、魅せられ、抗いがたい魔力にからめとられて、ずぶずぶと泥沼に足を踏み入れる如くに、彼の舞台を観るために奔走していたのだけれど。
ただ、"正統"ファントムは、醜く、老いを感じさせ、朽ちていく男の哀愁を漂わせなければならない。
間違っても自信満々に高笑いをする若者ではいけないのだ。
祐一郎ファントムはあくまでも"歌を聴かせるための"ファントムだった。

そう思うと、先日私が観た佐野ファントムは、ある意味においては祐一郎ファントムよりも、よりファントムに近いファントムだったのだと思う。
初老の域に差しかかっていたし、弱々しく消えゆく男の憂いも滲み出ていた。
ただ、願わくば、もっと歌えてほしい、声に伸びと張りがあってほしい、という点で悔やまれたのだ。

先週から、ファントムが村さんに交代した。
赤坂にプレハブ劇場があった頃、村さんのファントムはよく観た。
村さんの、声楽家にありがちな、少しお腹の出た体型と、"中年男"然とした雰囲気と、不思議な色気のある歌声が、私は割と好きだった。
良いファントムだな、と思った記憶がある。
機会が得られそうなので、年内にもう一度、佐野さんとは別のファントムを観に行こうと思っている。
by bongsenxanh | 2009-12-21 01:21 | 観劇周辺 | Comments(2)
Commented by aya at 2009-12-21 06:22 x
村さんのファントム、結構好き。
声の安定感はさすがだし、
オトコと父性を兼ね備えている。
Commented by bongsenxanh at 2009-12-21 23:20
♪ayaさん

私も村さんのファントム、結構好きw
そうなの、いつ観ても乱れることなく安定しているし、
ayaさんの言う通り、不思議と男(の色気)と父性が同居しているんですよね。
これ、両方揃っている方って、いそうでなかなかいないのですよねー。
久々に観られそうな気配の村さん、楽しみです^^


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